Jun潤

ティルのJun潤のレビュー・感想・評価

ティル(2022年製作の映画)
3.9
2023.12.26

(たしか)ポスターを見て気になった作品。
1955年、白人女性に口笛を吹いたという理由で殺された少年、エメット・ティルの母親、メイミー・ティルの姿を描く。

1955年8月、アメリカ、イリノイ州シカゴ。
エイミー・ティルは一人息子のエメット・ティル、通称“ボー”と共に暮らしていた。
その頃のエイミーの心配事は、ボーが夏のバカンスをミシシッピ州マネーの親戚宅過ごすことだった。
シカゴですら黒人差別が色濃く、さらに南部のミシシッピ州となるとどんな苦難が待ち受けているのか心配でならなかった。
ボーは持ち前の明るさで母の心配をよそにバカンスに心を躍らせていた。
悲劇は唐突に、そして理不尽に起きてきまう。
引き金は、ボーが親戚宅の側の生活雑貨店の白人女性の店員、キャロインにナンパして口笛を吹いたこと。
ボーの親戚たちは白人達が報復に来ないかと気が気でなかったが、ボー自身は全く気にしていなかった。
その後、キャロインの夫と兄弟は親戚宅を特定し、ボーを誘拐してしまう。
ボーが行方不明という一報を受けたエイミーは取り乱すが、黒人牧師が殺された事件をきっかけにした解放運動に乗り、メディアの力を使ってボーを探し始める。
しかし、エイミーの奮闘むなしく、ボーは無惨な姿で発見された。
ボーの遺体を前にして、エイミーはボーを殺した罪を償わせるため、ボーの姿を棺で隠さずに葬儀を執り行う。
黒人としてではなく、母としてエイミーは立ち上がる。

最近ディズニーがやたらと推し進めている黒人主演の映画を観るよりもよっっぽどポリコレしてる作品でした。
「ほら!今私たち肌の色で差別してないでしょ!」な姿勢よりも、先人達が犯した愚かで大きすぎる過ちを、こうして作品にして世に残す方が、2度と同じ過ちは犯さないんじゃないかと思いましたが、そうでもない気もしますね。

ボーの姿やキャラクターが、ドラマやアニメからそのまま出てきたような陽気な黒人少年って感じだったので、そんな姿があまりにも惨く変わってしまったことが心を抉ってきました。

終盤の裁判シーンはもうどんな感情で観ればいいのかわからなくなりました。
事の一部始終を作品の外から観ているから、エイミー側の主張と事実に全く齟齬が無いのに、この期に及んでボーは死んでないんじゃないかとか、挙句の果てにはキャロインは乱暴されたと事実を捻じ曲げ始める。
こんな司法の暴走、歪みは時代が起こした惨劇であって欲しいけど、現代にもまだその因習が残っているんじゃないかとも思わずにはいられませんでした。

証人喚問でエイミーが語ったのは、大多数の人間が知っているはずの母の愛。
しかしそれをどれだけ強く訴えたとしても、科学的根拠には基づいてくれない。
悪魔の証明よりもよっぽど悪魔だよこんなん……
Jun潤

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