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ティルのMKのレビュー・感想・評価

ティル(2022年製作の映画)
3.5
リンチ(私刑)
・国家ないし公権力の法に基づく刑罰権を発動することなく、個人または特定集団により執行される私的な制裁。
・社会的な非行を行った者に対し、法的手続なしに加えられる集団的な暴力的制裁。

そんな「リンチ」を「憎悪犯罪」と定義する法案「エメット・ティル・反リンチ法」が2022年に制定されたことを受けて?の作品といえばいいのかな…本作のおかげで蓄えたにわかな知識だけど…こんな法律が今までなかったことと、今でも必要なことに驚きもしたし悲しかったけど。

物語は法案名のルーツとなる少年ボーことエメットと母メイミーの愛情の物語。

事実を追う必要があるせいか、情報というか顛末を描き切る必要があったためか、エメットやメイミーの生い立ちは理解不足なまま進んでいく印象。

ただ、エメットの悲報を知り、彼の亡骸と対峙して以降のメイミーには何度も心を奪われた。

あとは母なるメイミーの感情に想いを巡らすばかり。

顔もわからないほどリンチされた我が子の遺体を目の当たりにした時の感情、それらを多くの人の目に晒した感情、弱々しくただ一人の我が子が死んだことに涙し、家族や親戚に哀しみや嫉みといった人間らしい気持ちを吐露する感情、彼の死を乗り越え社会問題としてのリンチと対峙していく感情。

いつもながらに涙を浮かべているような母メイミーの姿はそんな沢山の感情を抱える脆いながらも決して折れない母の像として痛々しくも突き刺さった。

そして彼の死をめぐる裁判で我が子への想いを伝えるシーン。

愛情だけで育ててきたため、憎悪への理解が充分ではなかったとの皮肉、母は我が子へ両手を捧げて日々を暮らしている、片手には我が子、もう片方の手は彼の望むものを…顔がわからなくてもその身体を触れば我が子だとわかる…そんな台詞たちに自分の母の言動まで重なってしまい、何とも涙が出て出てきた。

母という存在から飛躍することはないのだけれど、我が子を悼み、弔うために奔走する母の姿が社会の慣習や制度の壁を穿つ物語はとても素晴らしかった。

いつもながら人間と人間が傷つけ合う悪業に終わりがないことには切なくなる。黒人の死にあって、「こっちじゃ良くあることだ」といった劇中の言葉も切なかった。

こういう作品を観ると差別を嫌悪しつつも自分も何らかの差別やハラスメントをしているのではと自省もしてしまう。

最後はAIを搭載したヒューマノイドでも差別の対象にして、差別のバカバカしさにみんなで気付けたらいいな。

他のレビュアーさんも書いていたけど、
the hate U giveが想起された。

あとはセリフのうろ覚えメモ。

私はシカゴで不自由のない暮らしをしていて、どこかで起きていることに関心がないように生きてきた。

今はどこかで私たちの誰かに起きていることは自分ことだと、息子の死を通じて考えるようになった。

この街じゃよくあることだ、それをママが大ゴトにしている。
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