メシと映画のK佐藤

ティルのメシと映画のK佐藤のネタバレレビュー・内容・結末

ティル(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

自分にとって2024年の映画始めとなった作品。
映画始めとしては大変重い内容でしたが、心打たれた良作でした。

実話を基にした作品で、黒人差別や黒人の公民権運動等現代にも通ずる事柄を主要テーマに描いていますが、本作のキモは、母の子に対する愛であったのだと思います。
裁判では何とエメット殺害の罪で起訴された二人は無罪放免となり、これを受けてメイミーは黒人差別と戦う闘士として祭り上げられて行くものの、その裁判の結末はアッサリで、エンディングも集会で激しくスピーチした後にエメットの幻に優しく微笑みかけるメイミーのシーンとなっていた事から、上述の考えに至った次第です。
で、この愛の描き方が本作は秀逸で、個人的に本作の最も優れた部分として挙げたいのです。

まず、メイミー役のダニエル・デッドワイラーの演技。
迫真の言葉が相応しい。
如何にメイミーがエメットを愛していたかを、細かな一挙手一投足で表しています。
エメットの死で慟哭するシーンと、裁判で例えどんな惨たらしくて人相を判別出来ない位傷んだ遺体でも母親なら自分の子供と気付くと主張するシーンは、特筆すべきものがありました。
ここまでガッチリ心を掴まれた演技は、久々でしたねー…。

そして、この愛こそ差別や憎悪に対する最大最良最善のカウンターであるとする組み立て方が、見事でした。
劇中の殆どが黒人に対する差別意識、憎しみ、怒りで満ちているのですが、だからこそメイミーのエメットに対する愛は燦然と輝いて観る者の心を打つものになっています。
憎しみに対するアンサーは更なる憎しみではなく愛であると云う作り手側の主張は、上述のエンディング(メイミーの闘争運動ではなく、それが終わった後の彼女の自宅でのエメットの幻とのやり取りで終劇)に表れていたかと。

本作はホラーであるとの評を拝見したのですが、強ちそれは間違っていないと思います。
今から百年にも満たない昔に、口笛を吹いただけでリンチされて殺されるなんて…しかもその下手人は逮捕される事なく、後に雑誌のインタビューで殺害した事を告白したにも関わらず罰せられる事も無く生涯悠々自適に暮らしたなんて、下手なホラーより恐ろしい。
改めて、人の憎悪とは如何様なものかを学ばせて貰いました。