なお

TAR/ターのなおのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ター………

何も知らん人がこのタイトルだけ見たら何のジャンルの映画なのか1ミリも分からんでしょうね、きっと。

だがしかし、日本の映画業界特有の「センスがアレな副題」を付けず「ター」とだけしたGAGAにまずは感謝の意を表したい。

✏️狂気
日本版の予告映像や、映画館に置いてあるフライヤーなどで全面に押し出している「狂気」が本作のテーマであるワケだけれど、同じく音楽界を舞台にした『セッション』のような、”見た目に分かりやすい狂気”が描かれるシーンは本作にほぼ存在しない。

だから、
「なんでそんな演奏もできないんだ!死ねバカ!」だとかそういった罵詈雑言の応酬を期待して見に行くと拍子抜けする可能性大なのでそこは注意。

本作でケイト・ブランシェット演じるリディア・ターは現代のクラシック業界を牽引する女性マエストロ。
人種や性別が様々なオーケストラをまとめ上げる辣腕は当然のこと、ステージとは直接関係のないメディアに出演した際も、自己の経歴や信条をユーモアを交えて語ってみせる。

映画冒頭で、クラシック音楽に造詣のない観客(自分含む)を完全に置いてきぼりにする談義を繰り広げるリディア。
自身が持つ「音楽観」については並々ならぬものを持ち合わせているリディアだけれど、それを除けば「狂気」などはほとんど感じさせない「カリスマ性を持った指揮者」といった印象である。

本作は、そんなカリスマ性たっぷりのリディア・ターというアーティストの人生が「徐々に、ほんとうに徐々に」崩れていく様を見届けるという内容に終始している。

✏️人が壊れる瞬間を見たことがあるか
人生とは、たった一つの綻びで全てがうまくいかなくなる、ということがままある。

かくいう自分も、詳細こそお話しできないがそのような「綻び」によって、以前勤めていた会社を辞めざるを得なくなったという経験がある。
(無論、今は幸せに暮らしています…)

リディアにとっての「綻び」とは一体何だったのだろうか?
助手であるフランチェスカとの関係に熱を上げすぎてしまったことか?
講師を務めた音楽院にて、生徒(マックス)をやり込めてしまったことか?
新メンバーであるオルガを楽団に迎え入れてしまったことか?
副指揮者であったセバスチャンを辞職に追い込んだことか?

本作におけるリディアの人生の”ターニングポイント”を上げれば枚挙に暇が無いが、どこかにおける選択の誤りでリディアは自らの人生を狂わせた。

誰もが憧れる「カリスマ・マエストロ」から一転、映画終盤では「ゼロからスタート」をも余儀なくされるリディア。

約2時間半という時間を持ってして、一人の女性の転落劇・そして再生(?)へと向かう激動のシークエンスは、ケイト・ブランシェットの迫真の演技なくしては語れない作品だと思う。

事実、映画冒頭は見目麗しい美魔女…という感じだったのに、映画終盤、マーラーの交響曲第5番の録音に臨むシーンでは10歳以上歳を取ったんじゃないか、というやつれ具合。
ケイト・ブランシェットの役者としての「狂気」が潜む作品でもあるかもしれない。

☑️まとめ
劇中にはところどころ哲学的だったり、クラシック音楽に詳しくないと共感できない説明的なセリフが多いので、寝不足で挑む朝イチ上映やランチ直後の上映回での鑑賞はあまりオススメできない作品。

だがしかし、前述したケイト・ブランシェットの鬼気迫る演技や「あのシーン(描写)はなんだったのか、どういう意味があるのか?」を考えるのが非常に楽しい作品であり、一見の価値はある。

そして、日本版の予告映像でさんざ擦られてきた「衝撃のラスト」ってそういうこと…?
たしかに「衝撃」というか、脳みそを物理的に叩かれたようなワケの分からなさはあったけれど…
「ひと指揮いこうぜ!」ってことだったのか…?ってやかましいわ。

色々と考える余地を与えてくれる作品だけれど、脳筋な自分は有識者の方々が既に考えてくれた考察サイトの海へ身を投じたいと思います…

<作品スコア>
😂笑 い:★★★☆☆
😲驚 き:★★★★★
🥲感 動:★★★☆☆
📖物 語:★★★★☆
🏃‍♂️テンポ:★★★★☆

🎬2023年鑑賞数:53(23)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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