cinemageek

TAR/ターのcinemageekのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.2
TAR/ター
監督・脚本/トッド・フィールド
監督はトッド・フィールドということで
イン・ザ・ベッドルーム(01)
リトル・チルドレン(06)
で知られる。
実は過去2作ともケイト・ブランシェットが主演作になっており、今作の脚本はケイト・ブランシェットを想定して書かれたそうだ。
この2作とも見ごたえのある作品なので、TARが気に入ったひとは是非見てほしい


アカデミー賞主演女優賞候補にもなったことで知られる、
ケイト・ブランシェットの最新作。

ケイト・ブランシェットといえばエリザベス(98)やロード・オブ・ザ・リング3部作のガラドリエルでも知られる名女優のひとり
彼女の真に迫る演技でこの映画はリアリティをかなり感じる1本になっている



クラシック界のことをよく知る人ほど面白い…ということらしいが、普通の人より少しクラシックを聞く程度+クラシック界のニュースを見ている自分からすると
聞いたことがある人の名前が劇中に出てくる
というのはリアリティを感じるに十分だった。

加えて、ケイト・ブランシェットの指揮者たる雰囲気はまさにそれで、素晴らしい演技の数々
加えて、固定カメラの長回しによるシーンが沢山あることから、
劇中に動きがない=セリフと役者の演技力で魅せられるシーンの多さにおどろく。

実際 女性の指揮者はまだまだ少ない。
ベルリン・フィルハーモニーで女性指揮者が生まれたのはつい先日のことで、映画の中で描かれている事案が、つい最近実現した…という部分はおもしろい


またジェンダーレスの意味合いや設定感は現代的とも言える。
ターは同性愛者であり、それを明確に見せつけない演出。自然感溢れる演出は押し付け感がなくて心象は良かった。

その一方で天才ゆえの苦悩やプレッシャーからくる不安感の演出はサスペンス感満載
ちょっとした音がきになってしかたない、寝ていても音が気になって寝られない
その原因が家の中にある様々なアイテムであったり、お隣の家が原因であったりする…といった
日常の中にあるなにげないものが 不安要素になるといった演出は、ターの天才である部分とプラッシャーにさいなまれていることを見せる演出としてはドキドキするものだったと言える。

また音の演出も素晴らしい
コンサートに向けてマーラーの交響曲5番の練習中にターが指示することによる音の変化は、クラシック素人でも変化が聞き取れるほど。
その音の変化があるからこそ、指揮者としてのターの実力の高さを観ている我々に説得力を持たせることに成功しているともいる。

またチェロのオルガ・メトキーナ/ゾフィー・カウアーの演奏は、明らかにレベルが違うことがわかるほどの変化をつけている。このゾフィー・カウアー自身はプロのチェロ奏者だそうで、ルックスと合わせて人気が高まるのではないだろうか?


加えてSNSの怖さも描いている。
ターの人生の転落はSNSがきっかけになっているし、若者のSNSでのコミュニケーションや本音をSNSでしか語らない部分を示唆している演出は現代的

ターの指揮者としての授業は密室であり携帯持ち込み禁止。しかしそうでであっても、その空間ないが社会に流布される。しかも切り取りをされ印象操作もされてしまう。
そのことからの社会的立場の転落。
ここは現代を舞台にした らしい 演出と言える

また隣人を知らない…というリアル感
作業場であるアパートの一室。
隣人の顔は知っているが、生活環境や家族構成などは全く知らず、ある日突然、すべてを知ることになる…という演出もふくめて、現代が持つ日常にあって意外と気づけていない「闇」とも言える部分もインパクト画の超える演出で見せつけてくれる。

エブエブを下げるつもりはないのだが、
この作品がアカデミー賞 作品賞、監督賞、主演女優賞をとってもおかしくない出来栄え
評論家受けはいいと思う
軽い気持ちで観ると意味がわからなくなる説明不足と感じる人もいるかもしれない
でも
そういった説明がないからこその考察や思いを馳せることができる1本


ラストに関しては様々な考察ができるだろう。
全てにおいてターの人生の結果をどのように受け取るかはぜひ劇場で映画を観て確認をしてもらいたい。
cinemageek

cinemageek