MubaoMasato

TAR/ターのMubaoMasatoのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.7
「TAR」

まず、この映画全て理解するのは難しいです。BGMも全く無く、長回しのトークや過去の指揮者の話や小難しい話ばかりで、自分も理解出来ないことや知識不足で相当悩みました。しかし、今は解説が載っている素晴らしい時代なのでそれを吟味するとこの映画は何が伝えたいのかを理解出来ると思います。

この映画は、タ―と呼ばれる時を操る指揮者であり、完璧且つ不都合なことは徹底的に弾圧する権力者と呼ばれる人物です。しかし、今まで観てきた映画の権力者では稀有な女性がモデルになっています。
ターは実在する男性ですが、今作の監督はケイト・ブランシェットに惚れこんでこの役を女性に変えたそうです。正直この選択は正解だと思います。あの役を演じるのはケイトくらいしかいないと思います。

展開としては、ターが栄華を極めた後の社会に殺され、孤独に落ちる最近の米国のキャンセルカルチャーを題材にした作品だと思います。

この映画は、ターの才能と誰にも持っていない権力が大きく誇示されています。何言語も話して、考えの合わない生徒を徹底的に論破し、二度と指揮者という希望を持たせないようにしたり、娘をいじめた子供に対して、脅しをかけたりするなど私に勝てるのは私だけという権力を使っていました。しかし、才能があるから誰も文句が言えないし、彼女が消えてしまうと舵を取る人がいなくなるので、文句も言いにくい。
また、自身の都合で他人をクビにしていました。

しかし、ある事件がターに起きます。それは、生徒の自殺です。
この事件を機に、ターは初めて加害者側に回ります。全てが上手くいった人生を回し続けるために、不都合なことを隠し始めたり、妄想が始まります。そして、SNSを使われた暴露が彼女を襲い、彼女は孤独に落とされ、社会的な権力を失います。

これは、現状のキャンセルカルチャーです。どんな素晴らしい行いを過去にしても一発の事件や暴露で失墜する。全てが無に帰すように。
そして、この作品を観て、あの作品と比較してしまいました。
それは、「セッション」です。鬼教官が生徒をボコボコにするという僕も一番好きな作品なのですが、唯一この二作品が違うのは視点です。
加害者か被害者かこの違いだけです。しかし、展開は全く同じで、二作品とも指揮者をすることは変わらなかったことに、自分は鳥肌が立ちました。
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