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TAR/ターのoguchiのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.8
何をどう撮るか? どんなさじ加減で描写するか? そんな美意識が終始感じられて、これは映画館で見るべき作品ですなーとゾクゾクさせられる。
ただ大きなミスはあると思う。それは長いこと。長く感じてしまうこと。正直何度も時計を見てしまったし、中だるみを感じてちょっとイライラした。こんな長時間かける内容じゃないのではないか? と思う。というかあえて描いていないシーンや人物が多い割にはずいぶん長い。

すごいなと思ったのは前半に出てくる長回しのシーン、学生とキャンセルカルチャーについて揉めるところ。ごくごく自然にカメラは主人公ターを追う、立ち止まるとカメラも止まる。その構図がビシッと決まっている。長回しでござい、と感じさせない、考え抜かれたプロの技を見せつけられた快感。
そしてさらに凄いのが、後半そのシーンが”切り取り動画”として再登場すること。下手くそで拡大した露悪的な編集で。美意識が微塵も感じられないモノとして。
個人的には作り手たちの静かな怒りを感じた。拡散・再生回数を目的とした連中がクリエイターを名乗ることへの軽蔑。
長回しを伏線として更に現代的な演出でメッセージを送る。その手があったかと思った。考えすぎかもしれないけど、編集や音響に異様なこだわりを感じる作品なのでおそらく狙ったのではと思う。

だからこそ、少し話題のラストにも引っかかるものがある。あれを「落ちぶれた」と解釈する意見、「そんなふうには思えない」とする意見、両方あるように思える。
でもあのカメラワークと編集、そして観客の気持ちを断ち切るような音響演出から感じるのは、作り手の意地悪さだった。
「我々はある一部の層を蔑視していないですし、そんなつもりではありませんでした」と言いながら、匠の技の計算のもと、観客の中から蔑視感情が生まれるように作られている気がする。
でなければあんな風にもったいつけて編集するかな? あんな風に「え? ん? あれ?」と思わせる描写にするかな?
と疑ってしまった。

どちらにせよ全編を通して企みと誘導とハシゴ外しの技が散らばっている映画。
すごい、この映画好きーと思いつつも、長く感じてしまうのは結構残念。
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