アル華

TAR/ターのアル華のレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.0
【”これまでにない”2020年代作品。】
ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。

引用 : 映画.com https://eiga.com/movie/97612/

◼︎軽く総評
好きです!
個人的には『エル』『ベネデッタ』のヴァーホーベン監督味香る。時に魅了される世界観、時に緊張感ある大好きなジャンル作品で、楽しめました!

〈現代の音楽界はターが牽引しています〉とまで評された名誉ある人物の大墜落フライトストーリーを、158分という長尺で意味ある魅せ方をしていたのが、とても良かったです!

主人公を演じた超大物ケイト・ブランシェットは、指揮もピアノも稽古したとの事で、実話ベースではないにも関わらず、本当にターという人物が存在したかのような演技に説得力があり、流石👏(主演女優賞に注目も納得!!

指揮者は音を支配しますが、本作を支配していたのはまさしくケイト・ブランシェットその人でしょう!


◼︎本作が描いたもの
トッド・フィールド監督前作『リトル・チルドレン』も大好きで、順調に見えた生活の狭間で、観客側から見て”間違ったこと”を繰り返した結果、どん底を経験。
最終的には”今私がするべきこと”に気付かされる。

そんなお話が魅力的でしたが、それは本作も同様で、
ギャスパー・ノエ監督作『CLIMAX』同様エンドロールで幕開けた第1章では、男性指揮者のレコードを踏みつけ、自身に満ち溢れた順風満帆で先進的な女性像が描かれた2020年代作品か…と思いきや何か様子がおかしい。。?

第2章へと段々と進行するにつれ、観客に対して明らかになっていく姿は、皆に慕われる偉大な指揮者などではなく、私生活では育児を他人任せに仕事にのめり込む傲慢で自分勝手な性格を持ち合わせ、交際相手がいるのにも関わらず都合良く若い女性を好んで連れ回すステレオタイプな男性像を秘めた主人公ターでした。

本作のテーマとも言える”支配”構造のもと、身勝手な行動(言動)を繰り返した結果、墓穴を掘り、最終的に牙を折られた猪になっていました。
また、あんなにも支配欲独占で傲慢さ満点だったのにも関わらず、過去の自分と向き合いながら辿り着いた彼女の次なる地点は、映像(メディアコンテンツ)にコントロール(支配)されており、その場の音を支配する指揮者・ターの姿はそこにありませんでした。
この逆転する構図の流れがとても綺麗👏


◼︎そこに”現代”という味付け
コロナ禍のお話であることも当然ですが、
主にSNS・ネット現代社会下で発言や行動を糾弾する。いわゆるキャンセルカルチャーを描いた本作はとても物語の舞台背景に親近感が湧きます。
監督インタビューでも語られていた内容ですが、前半の単調なシーンと打って変わり、転落までの速度は凄まじく、SNS社会ならではの内容が特徴的。もしも仮に本作の舞台が遥か昔なら、この事件の発露から結果に至るまではゆっくりだったかもしれないと思うと、本作が描かれた世界は他人事には感じず考えさせられます。。
これらの要素は、リベラル志向とはまた異なった2020年代の新たな現代作品だと感じる楽しみもあったのかなとも思えます!


◼︎結び
ターが時折見る悪夢や毎晩音がする正体。
冒頭機内でターを写していた人物の正体。
トークショーで印象的な後ろ姿の人物の正体。
全てこちら観客側に考えさせる為に極限まで省かれた説明と、それが故に増す不気味な演出が堪らん!!
すき〜
アル華

アル華