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TAR/ターのIDEAコメント休止中のレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.2
『私の王国が崩れてゆく音がする』

これは絶対的な実力でベルリン・フィルを支配するリディア・ターの転落劇か。
はたまた音楽を指揮する喜びをゼロから見つめ直す希望の物語か。


最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルの首席指揮者ターを演じるのは名優ケイト・ブランシェット。
ストーリーは示唆的であまり説明をしないタイプの作品であるが、ケイト・ブランシェットの立ち振る舞いや明確に変わってゆく表情だけでも十分に今作の魅力を感じ取れる。
ただ終わり方がブツっと途切れてしまったような気がして個人的にはその先を描いて欲しかった気持ちが強く残った。
しかし今作をゼロからの再生の物語として捉えるならば、私たちが音楽を聴き各々解釈するように、彼女のその後の人生を解釈するための余韻を持たせたということと考えても良いだろうと感じる。

また、ターの人生の顛末を描くと同時に、SNS社会が孕むリスクと不用意なキャンセルカルチャーに対する熟考を促すようなメッセージが込められており、それが凝縮されたターと学生の会話において果たして貴方はターに共感するのか学生に共感するのか。

どちらにせよ物事にはそれが起こった理由や背景があるのだから、今の時代の自分の価値観のみを物事を図る尺度とするのはあまりに危険で無責任であるということを肝に銘じることができる意義ある作品だと思う。

10年先、今貴方が正しいと信じる価値観が尚も正しいかどうかわからないのだから。