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TAR/ターのmitzのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.5
ケイト・ブランシェットによる架空の世界的指揮者リディア・ターの物語。
物語冒頭、プロローグとなる冗長にも感じるインタビューシーン。高尚で哲学的な思想を語り続ける長回しのシーンが、その後の展開を提示する構成になっています。
ストーリーはキャンセルカルチャーを大筋とし、ハラスメントからジェンダーレスまたメディアリテラシーまで(コロナ禍も含め)現代を明確に描いています。
家父長制的なヒエラルキーを勝ち抜き圧倒的な権力を手にしたリディア・ターの凋落。また彼女が精神的にバランスを崩す過程を音(音楽)で表現し、あくまで抽象的な表現に留めています。
と同時にリディア・ターを「ヒール」として描き切らず観る側に委ねています。それに限らず、物語は現在軸の中ほぼ全ての事象に対して真相を明らかにしません。中盤以降、短めのカットの連続の中に無数の行間が存在します。
指揮者として「時を操る」ことでオーケストラだけではなく音楽界を支配したひとりの女性を共感と不快感を同じ分量で丁寧に描き、彼女が選択した再生への道筋もとても象徴的です。
オープニングで民族音楽と流れるエンドロール。またBPMの早いもうひとつのエンドロールなど、不可解な演出も含め「結局あれはなんだったのか?」と考察の余地を残した圧巻の作品。

造詣の深い方はより解像度高く楽しめます。是非、映画館で観てください。
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