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TAR/ターのtntnのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.9
過去から現在、未来までのすべての出来事を一直線に繋ぐことを拒否するかのようなぶつ切りの編集と溶けるようなフラッシュバックは、目的や意図を持つ確固たる主体であるはずのリディア・ターの中にある「ほつれ」を表しているかのよう。
権力と名声を手にした天才であるターについては不明瞭な箇所があまりにも多い。おそらく彼女は、不誠実というよりも、周囲の人々に自分が何をしたのかという過去を思い出そうとしても思い出せないのではないか。もしくは、オーケストラの指揮と同じく、自分の中に流れている時間を再構成しているのかもしれない。
リディア・ターの持つ曖昧性、非ー規律性は、たとえば英語とドイツ語という言語の世界を、必要に応じて使い分けているのではなく、自分でも意図しないままに瞬間移動し続ける様にも現れている。
加害行為に責任を取らない点に関しては無邪気に称揚することはできない。
しかし、周囲の人間や観客が抱くであろう彼女に関する一義的な意味を次々とすり抜けていく主人公は、個人的にはとても良かった。
逆に、『野良犬』『激突!』を彷彿とさせる「垣間見えるブーツ」は、不気味な対象を一つの視覚的要素に還元してしまうことへの警告なのかも。全体的に、この映画は視覚への不信感が強い。音の出所は、最後までわからないか、わかったとしても掴みどころがない。
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