ゆきゆき

TAR/ターのゆきゆきのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.7
見るのになかなか体力のいる作品。しかしそれだけの価値がある。クラシック音楽には明るくないので、実際の指揮者との比較はできないが、それでも全体を通してケイト・ブランシェットの演技の迫力は凄い。

劇中では過去の優れた指揮者が性的スキャンダルによって凋落していったことが語られるが、それは主人公のリディア・ターも例外ではない。結局彼らの失脚は、権力を欲しいままにして強欲的に振る舞った結果なのであり、セクシャリティの問題ではないのだ。パンフレットの解説では、リディアがベルリンフィルを私物化できたのは彼女がレズビアンであったことと、ドイツの歴史が関係しているというなかなか興味深い記述もあった。

個人的には、隣人から退去勧告をされたリディアが、即興でアコーディオンを弾きならしながら隣人をディスる歌を歌うシーンが印象深い。こういう追いつめられた人間のヤケクソ気味な行動が好きなのもしれない。

ラストは正直面食らった。ただ見せ方が唐突だったので驚いただけで、内容自体は納得の範囲内。つまりこれはハッピーエンドなわけですよね。ベルリンフィルの観客より明らかにこっちの観客の方が、作曲者の意図を汲んで演奏に耳を傾けてくれる人たちばかりなのですから。
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