おこのみやき

TAR/ターのおこのみやきのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.7
固有名詞は多いが説明は少ない。これはこの映画の特徴で、悪いことだとは思わないが、字幕が不親切。

シネスコサイズだから一行の字数が増えるのは仕方ないが、ただでさえカタカナ語が多い中で、不必要なルビが多い。読みづらい。音声がドイツ語になる場面で訳さない選択をしたのには何かしら理由があるのだろうが(元言語でも訳出していないからか)、時々訳す時に英語字幕と重なってしまう。消せなかったのだろうか。フランス語の場面も然り。せっかく美しい画面なのに、字幕のせいで汚く不快。

映像についてはかなり視点の置き方が独特だと思った。特に車がトンネルを走る場面は不思議な気分になる。
また、視点の切り替えでリディアの精神世界と外の世界を切り替えているという解説をみたのだが、確かにそうだったなと納得しつつ、少々分かりづらい演出だと思う。リディアの精神が危うい状態に向かっていくことは分かるが、文脈としては普通によくあるサスペンスだと思ってしまうので「ここからが精神世界」と線引きを要求されていたとは思わなかった。

そして最後のシーンは、かなり問題があると思う。監督が「タイで日本のゲーム音楽を指揮する」ことを純粋なリディアの再生の始まりだと捉えているとは思えない。リディアが大学院時代に民俗音楽学を専攻していたことと、「エキゾチックなアジア」でリスタートすることを紐づけているように思えて気持ち悪い。現に最後のシーンはかなり投げやりで、作り手の真摯な姿勢が感じられない。

映画としてはエブエブよりも好きだが、作品賞受賞作としてはまだエブエブのほうが妥当かもしれない。ただ、レズビアンの描き方についてはエブエブよりもかなり踏み込んでいるし、一歩進んでいると思う。