月子

TAR/ターの月子のネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

すごすぎて、感想を書いたら何を書いても自分の偏見が零れてしまうからずっと何も書けなかった。私の中でNOPEと同じような括りのスルメ映画。気付けていない部分もたくさんあるだろうから早く配信してほしい。何度も観たいし人にも薦めたい。多分私の今年ベスト。

他の人の感想を見ると結構ターの自業自得だと言っている人がいて驚いた。私には、ターは若い音楽家を可愛い、タイプだと思ったから音楽の面でも贔屓するっていうよりは、音楽的な評価が恋愛感情を下支えしているように思えたんだけどな。クリスタとこじれたのも、クリスタの情緒不安定さは指揮者に相応しくないと評価してそれゆえ恋愛的にも冷めたのかと思ったんだけど違うのかな…?楽団に送っていたクリスタについてのメールも全部返信メールだった=ターから送ったわけではないっぽかったし。

あと、副指揮者を降ろすきっかけになったシーンを観て私は、ター意外とワンマンじゃないじゃん、周りの意見ちゃんと聞くんじゃんと思ったのだけど、他の人の感想で「周囲をイエスマンで固めてる」と見てそっか〜〜確かにそうとも取れるな〜〜〜と思い唸らされた。
あの副指揮者は音楽的評価によって降ろされたのだからそれは正当なことだと私は思い込んでいたけれど、もし仮に男女が逆転していたら、若く優秀な男性指揮者が恋愛関係にある男性たちの意見を聞いて女性の年配の副指揮者を降ろしていたら、私はそれって男尊女卑じゃないか、と怒っていたと思う。あれ、私、その人の性別で無意識のうちに善悪の基準変えてる…?自分の中のミサンドリーの片鱗に気付いてギクッとした。そういう自分の偏見を炙り出されるシーンがたくさんあるから、偏見を露呈させてしまいそうで気軽に感想を口にするのが怖い。でも他の人の感想も聞きたい。正解の解釈が知りたい。でも多分正解はない。
監督は正解を示すことはせず、全てどちらにでも取れる作りにしているのだと思う。そこが本当にすごい。だって、現実にだって絶対的に正解の解釈なんてない。

他にも、影響ある立場になると周囲の人が勝手に色々な感情を擦り付けてきて大変だなと思ったり、ターの光が強すぎてクリスタは半ば無意識にぐるぐる回って勝手にバターになっちゃったのかなと思ったり、光が強すぎる人は周りの人をバターにしないように注意すべきなのかもでもそれってその人の責任か?と思ったり、かと思えばオルガみたいな人も寄ってきてターみたいな人は自分に示される好意に裏がないか勘繰らなくてはいけないのは普通に可哀想じゃないか?と思ったり、色々なことを思った。

オルガを見ていて、同じ法学部の男子を思い出した。刑法の男性教授Aと仲良くしてLINEなんかも交換して、可愛がってもらって弟子とか言われちゃってたのに、結局同じ刑法の他の男性教授Bのゼミに入った。傍から見ていても教授Aが可哀想だった。恋愛感情じゃなくても、可愛い弟子感を売りにするやつもいる。その男子は成績も優秀だったけど、ペーパーテストって名前隠さない分、覆いをして音色だけで判断する音楽のオーディションよりよっぽど恣意性が介入する余地があるんじゃないか?と穿ったことを思ったりもした。でもこれも全部私の偏見なのかもしれない。ていうかそうだよね。誰も偏見から逃げられない。

ケイト・ブランシェットが美しすぎるのが多分に影響してターに肩入れして観ちゃってたけど、これもう私もターの魅力の術中なのかな。クリスタに肩入れできなかったのは、私がクリスタみたいな立場に置かれたことがないから想像力が欠けているのかな。分からない。分からないからこそまた見たい。オルガの最初のオーディションのシーンもよく分からなかったし、やっぱりもう一度観たい。
月子

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