不在

TAR/ターの不在のレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.8
男性が支配する芸術の世界における女性のあり方や、それによっていかに女性が抑圧されているかを描いた映画、かと思いきや実際はもっと複雑なものだ。
この監督は物事を一面的に賛同、または批判したい訳ではない。
問題との向き合い方を説いているのだ。

主人公ターの振る舞いはまさに権威的な男性のそれであり、芸術の名の下で行われるハラスメントを肯定するものとなっている。
男性優位な社会で奮闘するレズビアンの主人公という、昨今の作品では礼賛されるべきキャラクターが、ここでは否定されているのだ。
しかし困った事に、ターに対するアンチテーゼとして黒人の生徒が唱える芸術論も、手放しで賛同できるものではない。
それがまかり通ってしまったら、ヴィスコンティやグリフィスの映画はこの世から消し去らないといけない。
『フォレスト・ガンプ』を撮ったゼメキスもそうだ。
トッド・フィールドが同じ映画監督としてこれに賛同しているとは思えないが、間違った意見として描写している訳でもない。
どちらの主張にも正しい側面がある。

このように一つの問題が内包するあらゆる側面を見せ、我々の意識の偏りを無くそうとしているのだ。
こういった多面的な作品が今後も増え続ける事を願う。
不在

不在