Hiroki

TAR/ターのHirokiのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.5
ついに今年も大晦日。
2023はなかなかレビューが書けなかった。
それでも読んでくれた方ありがとうございました。
来年はもうちょっと頑張りますので皆さま引き続きよろしくお願いします!


2023オスカーでエブエブと熾烈な賞レースをした今作。
2022ヴェネツィアのヴォルピ杯(女優賞)作品。
トッド・フィールドは実に16年ぶりの監督作。(しかも物理的におそらく最後の映画作品になるのではないかと...)
そして突然の主演ケイト・ブランシェットの引退宣言。(「私は役者を辞めるために今まで努力してきたのだと思う。」というめちゃくちゃかっこいい言葉を残していた。)
話題には事欠かない作品です。

今作は基本的に1度観ただけで理解するのはほぼ不可能だと思う。
そしてとても複雑で解釈や感じ方がどんどん分岐していくような作品。
というかこれ監督自身も
「私自身の解釈はもちろんあるがそれが正解というわけではなく、観た人が違う事を感じたとしてもそれを私も受けとめる。」
というような発言をしていて、これが正解というようなモノはない。
さらに公開から時間が経ってるのもあって世間に数多の解説や考察が存在している。
それを前提に今回は私が思った事と感じた事を。

まず複雑に絡み合う要素の中で確実に中心にあるのは“キャンセル・カルチャー”についての映画だということ。
トッド・フィールドが役者として最初に注目されたのが映画界におけるキャンセル・カルチャーの象徴であるウディ・アレン『ラジオ・デイズ』だったのは偶然なのか...
昨今の日本でも旧ジャニーズやら松本人志やらキャンセル・カルチャーが社会問題になっていきそうな予感。
一度起きると雪崩ですからね。
アメリカでのワインスタイン事件からMeToo運動への流れをみればわかるとおり。
まーこのキャンセル・カルチャーはネガティブな意味合いで使われる事が多く、法的にではなく同義的観点において、人はどのくらいまで他人にキャンセルされなければならないのか?という問題をはらんでいる。
法的に逸しているのなら当然法の元に裁かれるべきだけど、法的には問題がない問題行為に対してその人をキャンセルする権利が人にはあるのか。
まーここらへんの問題が今作では全編にわたって関わってくる。
このキャンセル・カルチャーに対する問題提起と共に上手く絡めて描いているのが権力の暴走と崩壊。
ここらへんは非常に紙一重な所があると思うのだけど、そこら辺を丁寧にかつ絶妙なバランスで乗りこなしている。

もう一つはやはり終盤のター(ケイト・ブランシェット)がオルガ(ゾフィー・カウアー)の後をつけていくシークエンス。
ここから物語の雰囲気が一気に変わる。
ここらへんはまーこれ系の映画における命題“実は死んでいるんじゃないか問題”です。もしくは主人公の妄想とか夢なんじゃないかという。
代表的な所だとトッド・フィリップス『ジョーカー』。
そう何を隠そう今作と『ジョーカー』の音楽監督は同じヒドゥル・グドナドッティル。
この人の奏でる音楽がそー思わせるているのか?それとも...

さらにラストシーン。
ここも意見が分かれる所ではあるのだけど、フィリピンでゲーム音楽(モンハン)のオーケストラを指揮するター。
権力や権威の象徴としての欧米やクラシック音楽。
それが“キャンセル”されて(あるいはキャンセルして)アジアやゲーム音楽に象徴される新世界へと足を踏み込む。
やはりこれは色々な意味で“キャンセル・カルチャー”の映画なんだなー。

キャストではケイト・ブランシェットは間違いなくキャリアハイ。
もはや彼女を観るための映画。
というかこの映画はケイト・ブランシェットなくしては成立しなかった。(トッド・フィールドもケイト・ブランシェットを元に書いていて、もし断られたらこの脚本自体お蔵入りにしようと思っていたらしい。)
美しくも恐ろしくまた、たくましくもおぞましい。
完璧。

ということで2023年のベスト!
他のベスト10は12月の作品などもう少し観てから決めます。

しかしトッド・フィールドまだもう1本撮って欲しいなー。
そしてケイト・ブランシェットもなるべく多くの作品に出て欲しい。
そう思わずにはいられない素晴らしい映画だった。

2023-70
Hiroki

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