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TAR/ターのレントのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.2
作家の人格と作品の価値。

ターが教鞭をとる大学での講義の長回しのシーンが圧巻だった。そしてこのシーンが本作ではネックになるのだろう。

女性を差別するという理由でバッハを嫌いその曲まで否定する生徒に対してターはむきになり講義のレベルを超えてしまう。

リディア・ターは自他ともに認める天才マエストロ。彼女はレズビアンを公言し、自分が指揮するオーケストラの女性団員と婚姻関係にある。

そんな彼女が作家の性的嗜好や人格をその作品の評価の基準とされることに反発するのは当然だが、若い生徒に対しての彼女の攻撃は少々度が過ぎていた。

作家の人格と作品の価値。作家の人格や言動がその作品を評価するにおいて基準とされるべきであろうか。これが本作で問われてるテーマだと思う。特に最近の映画業界ではこの話題で持ちきりだ。監督が演技指導と称して女優に性的暴行を加えていた、出演俳優が性的暴行あるいは薬物犯罪を起こし作品がお蔵入りに。作品に罪はあるのかということがこういった事件が起きるたびに議論されてきた。
当然、スポンサーのついてる作品ならば公開は難しくなるだろう。スポンサーはイメージを大切にする。だが、果たしてその作品の評価がそれによって下がるだろうか。
極端な話、死刑囚が作った陶器が芸術的に高い評価を得ることだってあるはずだろうし、そもそも人間の心の中なんて誰にも分らない。心が汚いから作品も汚いなんて言える人間がいるなら逆にその人の心の中を見せてほしいと思う。
人間の心の中は見えないが作品は見える。劇中でのソリストのオーディションシーン、演奏者が誰か見えないよう壁が立てかけてあった、先入観なしに演奏の良し悪しだけで選ぶためだ。
作家の人格で選ぶ人間はたとえ素晴らしい作品でも作家の顔が見えていてはその作品を選ばないかもしれない。そんな偏見を省けるいい手法だ。

私個人としては作品とその作家の人格とは関係ないと思う。まあ、これは人それぞれだけど。見たくなければ見なければいい。私は今でもロマン・ポランスキーや、ケビン・スペイシーの作品は大好きだ。

天才マエストロのリディア・ターは仕事も私生活も順風満帆のように見えた。しかし、頂点に上り詰めた彼女もやはり御多分に漏れず権威におぼれ、自らの欲求を満たすために周りの人間を傷つけていく。自分の意に添わなかったレベッカを追い詰め死に追いやったことから彼女は糾弾されその地位を失う。
女性指揮者として逆境の中築き上げた地位が崩れていくのは一瞬だった。彼女が普段感じていた視線、何らかの音に悩まされ続けたのは彼女の罪悪感から来るものだったのだろうか。表舞台から追われて落ち着いたフィリピンの地でマッサージ嬢を選ぶ際、嘔吐したのは自分の今までの行為を恥じてのことだろうか。

主人公は女性だが、男性と同じく権威を手にした人間が道を踏み外してやがて破滅を迎えるさまを性差関係なく描いた点でもよくできたジェンダーレス映画といえる。また、誰もが羨望の目で見つめる完璧だったターが徐々に追い詰められて狂気を帯びていく様は実に見ごたえがあった。

ちなみに終盤でオーケストラに乱入して相手の指揮者を突き飛ばす時の掛け声はやはり「ター!」だったな。

ラストのコスプレイベントの意味を筆頭にわからない伏線がちりばめられていて、レビュー書き終えたら解説動画を見ることにしよう。
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