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TAR/ターのhuaのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

『マエストロ:その音楽と愛と』を観たので、レナード・バーンスタインの弟子であっという設定のリディア・ターを描いた本作を鑑賞。
リディア・ターは実在せず、ケイト・ブランシェットに当て書きして脚本が書かれたフィクション。

しかし冒頭からバーンスタインの「マーラーシンフォニーNo.9」のレコードを足で扱っていて、大丈夫なのかと不安になりつつ、リディアにとってバーンスタインとは本当に尊敬する師であったのかと、疑問に思う。

ケイト・ブランシェット自身は相も変わらず綺麗で格好いいのだけど、自信家で常に頂点に立って周りの人を支配したい、自己愛が強く、他人に自分の考えを押し付ける、なかなか人間味のない強者のリディア。

『マエストロ:〜』はオーケストラの演奏シーンが素晴らしかったので、本作でも期待したが、ほとんどなくて残念。
それよりも、リディアのキャンセルカルチャーによる頂点からの転落を描いた作品である。
SNSの普及によって現実にもあることで、しかし他人の許し難いほどの暴挙を世間に知らしめることによって、貶める。
どっちもどっち。なんだか人間の醜さを垣間見るのは気分が悪い。
本作の登場人物は大概性格の悪さが出過ぎていて気分が悪い。

リディアは愛する養子を虐めた子供を恫喝したり、気に食わない副指揮者をクビにする話をする時にボールペンを盗んだり、パートナーの薬も盗んで勝手に服用したり、トイレで一目惚れした若い女性を過剰に贔屓したり…
なんかやってることがことごとくセコい。

曖昧で判然としないことが散りばめられている。
結局あれはどういうこと?とか結局あれは誰がやったの?とか分からないまま終わることが多く、満足のいかない演奏場面の細切れのシーンも相まって、なんとなくスッキリしなかった。

本来なら最後に流れる“エンドロール”から始まる辺りも何を意味しているのか。
個人的には、一番偉くて他のオーケストラのメンバーに(もしかしたらそれ以外の周囲の人にも)権力を振りかざしていいと思っている指揮者は、映画製作における監督に置き換え、他の多くのスタッフに敬意を表したのだろうかと想像した。

この作品を音楽映画と見るのか、ちょいちょい挟み込まれるクリスタの姿からホラーと見るか。
音に過剰に反応したり、幻聴幻覚もあるようで、精神の病から人間の狂気を描いたサイコスリラーか。
観る人によっていろんな解釈がありそうだ。
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