けーはち

TAR/ターのけーはちのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.4
レズビアンを公言する「女性版バーンスタイン」といった風情の天才指揮者の栄枯盛衰ドラマ。ケイト・ブランシェットがパワハラセクハラ何のそのゴリゴリ権威主義のオッサンみたいな超男性的な成功者のオーラを放つ。人種だのセクシャリティだの何だのをアイデンティティにしても何の役にも立たんぞ、という我の強さ、能力に見合った矜持と威圧感に溢れる。150分以上の長尺はほとんど音楽の描写ではなく、彼女がどんな人間か、実存性を突き詰めて描くのに費やされる。ひとつの躓き、疑惑やデマで悪評に晒されて果てはフェイク動画を流布されるSNS情報化社会、今やトップには完璧な自己プロデュースを求められる辛さもまた鏡写し。クラシック音楽業界トップの天才も世間一般から見ればまたマイノリティで地位や名声という社会的地位を剥げば共感や理解はされない孤独。ラストのアジア某国に流れてコスプレゲーマーの前で行う演奏会は、果たして凋落なのか外面を捨て音楽を突き詰める果てに逢着した究極の境地なのか、それは誰にも分からない。