いずぼぺ

TAR/ターのいずぼぺのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.8
我々が楽しい音を生み出すことは、人が神に最も近づく体験になる

生々しいフィクションドラマ。
ケイト・ブランシェットの素晴らしい演技。
オーケストラに明るくないので、間違ったことを書くかもしれないがお許しを。

主人公ターは世界屈指の名門ベルリン・フィルで女性初の常任指揮者という設定からも冒頭のインタビューの場面からも才能はもちろんかなりの野心家であることがわかる。努力家でもあろう。フィクションではあるが、このポジションに登りつめるまで様々な困難を乗り越えて来たに違いない。
時として様々な困難を乗り越えて来た人は、自分と違う道程を歩んだり困難に向かい合わない人に冷淡になるように思う。指導者という立場であればなお。指導と支配はどれだけ気をつけていても線引は難しい。
ターは彼女のストレングスで最高峰のポジションを勝ち取り、そのストレングスの反作用で転落をする。その過程の演技が素晴らしい。そして栄光の生活から放物線のように反転する過程の描写。

エンディングは落ちぶれたターの姿ともとれるかもしれない。でも、私はそのように感じなかった。高尚なクラッシック音楽の名曲でもなく、一流のオーケストラでもなく、最高峰のホールでもないが評論家でも同業者でもなく蘊蓄タレでもなく、純粋にその「音楽」をワクワクと聴きに来ている聴衆で埋められたホールで振るターの背中に哀れさは感じなかった。ベルリン・フィルや関係者に神の如く振る舞ったターよりも、全てを失ってなお指揮棒を振る背中に「音楽の神」と再会できた彼女の幸せを感じた。
そう、ハッピーエンドだと感じたのだ。

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