しの

モリコーネ 映画が恋した音楽家のしののレビュー・感想・評価

3.7
モリコーネの作曲プロセスとそれに対する周囲のリアクションを一曲ごとにひたすらインタビューしていく。膨大な音楽知識の体系化とその応用による変幻自在の映画音楽の豊かさを浴びた末に、生涯をかけて「自分のため」と「誰かのため」が収斂していく様を体感できる。

ある時は監督や脚本家よりもその映画を理解し最適な音楽を生み出すという「誰にでもなれる」側面と、その裏にある絶対音楽へのコンプレックスやその表出としての実験音楽的な試み、常に新しいアプローチやアイデアを模索する「彼でしかなさ」。その表裏一体性の体感こそがこのドキュメンタリーの軸ではないかと思う。どの年代の曲だろうと昨日のことのように鮮明にその作曲プロセスを解説できるモリコーネの「深淵」にまず圧倒されるのだが、その一曲一曲が彼にとっては利己と利他の葛藤ともがきの歴史だったのだということがよく分かる。

自分は本作を観て改めて、とくに商業における創作活動というものはこの「利己と利他の葛藤」がキモだよなと認識した。やりたいこととやるべきことの間で悩むのは作家の常だ。そんな中で名作の名シーンが完成していく感動は、映画館で観るとひとしおだ。そしてこういったドキュメンタリーで感銘を受けるのは、その葛藤を振り返る本人が基本的には楽しそうなことなのだ。

終盤になるほど周囲の持ち上げがうざったくなる構成ではあるが、その中でも本人は本当に最後まで謙虚で誠実だ(本作が彼のどういう言葉で終わるか!)。利己と利他の葛藤に向き合い続けた彼の人生を、彼のプライベートやら何やらのエピソードを入れずに、ひたすら知識とアイデアの奔流で体感させるこの映画の作りは、「創作人」を映すドキュメンタリーとして非常に真っ当だと思った。
しの

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