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モリコーネ 映画が恋した音楽家のhasseのレビュー・感想・評価

4.2
エンニオ・モリコーネの音楽を映画館の大音響で聴きたくて、劇場へ。

ドキュメンタリーにしては長尺の部類だが、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の小粋な演出(複数の話者のショットを素早くモンタージュし、まるで会話しているかのような空間を作り出す)、腕のいい編集のお陰で全くだれることなく観て、聴いていられた。
レオーネ諸作品をはじめ、コルブッチ、カヴァーニ、ジョフィ、タランティーノ、ベロッキオ、ペトリ、ベルトルッチ、パゾリーニという壮烈な面々の作品に捧げられたモリコーネの音楽が怒涛のように続き、最高の時間だった。
また、各作品の編集がカッコよすぎて、予告PVを観てるみたいだった。どの作品もめちゃくちゃ観たくなった。
『デボラのテーマ』が流れた時、高校時代に初めて聴いたときの感動がよみがえり、思わず泣いてしまった。ジブリ音楽も最高だが、モリコーネほど感情を揺さぶられる映画音楽はない。

モリコーネが最初は映画音楽の仕事をやりたくなかったこと、西部劇というジャンルをあまり好いていなかったことは有名だが、本作で彼の言葉から感じ取れたのは、嫌いでありながら惰性に陥るのではなく「次は(西部劇に提供したのとは)全然違う曲を創ってやろう」という反骨精神を持ち続けていたことだ。じつは若い頃、実験音楽のグループを作るなどの活動もしていたらしいが、その音楽性が後々まで活かされている。

モリコーネが拘ったのは、他人の曲を映画に当てはめる仕事はしない、引き受けた映画音楽はすべて自分で作曲するということだった。相手にするとめんどくさそうな雰囲気がするが、インタビューを受ける人は皆、最後はモリコーネを信じて彼に全部任せてしまう。すると、(誰かが言っていたが)「監督や脚本以上にその映画を理解した」音楽が出来上がってくるというのだからすごい。モリコーネ曰く「その映画にぴたりと当てはまる音楽がすぐ浮かぶ」らしい。天才あるあるですね。

モリコーネの音楽は、個人的に本当に大好きだ。とてもエモーショナルで一度聴いたら忘れられない。だが、ベタベタと感傷的でなく、品があり、ゆえに優れた監督の映画作品にとても合う。合うだけでなく、その場面の妙や人物の感情をさらに引き出し、深く印象づけてくれる。

モリコーネは、映画音楽家という職業と生涯葛藤し、「この仕事は10年経ったらやめる」と常に思っていたようだが、モリコーネがいなかったら、映画史は少し変わっていたに違いない。マカロニ・ウエスタンは今のように一定の地位を確立してなかったかもしれないし、多くの名作が名作たりえなかったかもしれない。少なくとも、モリコーネのいない映画史はとても寂しいものになっただろうと思う。
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