ABBAッキオ

モリコーネ 映画が恋した音楽家のABBAッキオのレビュー・感想・評価

4.7
 2021年イタリア。映画音楽で不朽の名作を書き続けた作曲家エンニオ・モリコーネ。2020年に亡くなったこの大作曲家が本人の長時間のインタビューを軸とするドキュメンタリーを残してくれたことに感謝しかない。
 ドキュメンタリー映画としては、本人のインタビューと彼に関わった数々の人、特に映画監督や作曲家たちのコメント、そして音楽と映画のシーンが続いているので見る人を選ぶ映画だろう。モリコーネの音楽、そして採り上げられた映画のいくつかを見た人でなければ150分以上の本作に集中力が続かないかも知れない。しかし映画を愛する人にとってモリコーネが切り開いた映画音楽という世界の重要性とパイオニアとしての重荷を改めて教えてくれる作品だ。
 モリコーネは唯一無二の天才だが、本作は作曲家モリコーネのルーツに切り込んでいる。生涯に最も影響を受けた作曲家としてJ.S.バッハとストラヴィンスキーを挙げているが、後者の弟子ペトラッチが彼の作曲の師匠。ペトラッチ自身は純粋音楽の世界に生きたがそれを越える可能性を見ていた。モリコーネはジョン・ケージの「現代音楽への風刺」に刺激を受け、純粋音楽ではなく映画音楽世界で古典的な作曲技法とそれを越える現代音楽の組み合わせを実践していった。特にセルジオ・レオーネとのコンビで制作したマカロニ・ウェスタン(「荒野の用心棒」の口笛、「続・夕陽のガンマン」の合唱など)の発想につながったよう。
 レオーネとのコンビの最高傑作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」に続く「ミッション」、「ニューシネマパラダイス」、「アンタッチャブル」とハリウッド映画の傑作の音楽を作曲し、純音楽派からの評価と和解が訪れる。しかし肝心のハリウッドでは音楽賞に6度ノミネートされながら2016年まで受賞しなかった。その間、2005年にはイーストウッドがプレゼンターとなって「特別賞」を与えはしたが、アカデミーの謝罪だったのか。
 日本人監督との協力がなかったのが惜しまれるが、映画音楽と純音楽の両世界を生きた20世紀から21世紀を代表する作曲家の名にふさわしい。
ABBAッキオ

ABBAッキオ