えむえすぷらす

オペレーション・ミンスミート ーナチを欺いた死体-のえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

4.0
シチリア上陸作戦で独軍の抵抗を最小限にするための情報をナチスドイツに信じさせるというオペレーションミンスミートを描いた作品。実際に行われた情報工作だそうでキワモノめいたその全貌はオペレーションエンスポライトなど実行させたチャーチルに似つかわしい。

本作では戦没者遺体の埋葬場所は重要な要素として扱われている。英連邦は当時戦死者の現地埋葬を基本としており遺体を本国に移送する事は原則として行なっていない。実際、日本にも英連邦戦没者墓地があり協定を英連邦の墓地管理委員会と締結して墓地を事実上無期限で無償貸与している。
チャムリー空軍大尉の家族エピソードとスペインの墓地エピソードはこの原則があっての事。

拗れた恋愛模様は作品の他の要素と共鳴するような構成を持たないまま登場していてちょっとトゲというか邪魔に感じる部分があるが、男性側の過剰な保護や一方的な恋心のウザさ、女性側の自立心、自己決定できるという強い意志を見せつつ作戦でのフィクショナルな人物創造を創作を映画作りのそれと重ねて見せ、それが作戦の綻びになりかねない要素として描いておりフィクションが時に現実の人を傷付けかねない危うさがある事を見せて来るなどしてきていて本作のシリアスな側面を支えている。

遺体を使うという意表を突いた作戦はナチス側を釣り上げる餌であり、そこで起きたドタバタはコメディ的ながら、その作戦のために工作担当者は女性を恋愛関係で手懐けたと思ったら男性ともねんごろになっていたりと007のような一方的なマチズモ描写に対して批判的な描写を突き付ける。
史実があまりにもコメディになりそうでその事へのカウンターマスとしてのシリアスな問題意識が散りばめられていて、そこが本作の奇妙な右往左往として見える。この構成のおかげで作戦自体の倫理的な疑念も描写出来たと言える。

マッデン監督、前作が『女神の見えざる手』『マリゴールドホテル』二部作だったりするので実に振り幅が広い。『女神の〜』が主人公のミステリアスな目的が主軸の一本道だったのに対して本作は史実が奇妙な分をそこにあった創作のありようから男女関係やスパイアクションものなどへの現実のシリアスな問題を突きつけつつ駆け抜けたものになっていて現代的な問題意識を上手く使う演出をする人という証明が加わった。

追記。遺体選定などに関わった人物はポール・リッター氏が演じている。この方は『人生はシネマティック!』で老脚本家を演じられていたが昨年病気で亡くなられていて本作が遺作となった。R.I.P.

追記2。劇中よく出てくるタイプライター的な通信装置=テレタイプは1840年代には発明されていて改良されて来てました。