柳之貓

神々の山嶺の柳之貓のレビュー・感想・評価

神々の山嶺(2021年製作の映画)
4.8
惜しむらくは谷口ジロー先生が生前に映像化を目にされ無かったことか…

氏は海外で絶大な評価を受けており、バンデシネのあるフランスが映画にしたというだけあって、リアリスティックで美しく、緻密で圧倒的迫力の情景描写など、漫画原作者へのリスペクトが感じられる素晴らしい作品だった!

原作漫画は数巻とはいえ、ワンクールのドラマにできるほどの濃密な内容である。それを如何にして映画の尺に収められるかが最大の関心事だったが、山屋・羽生の生き様は余すところなく描き出されていた。

もちろん、削ぎ落とされた部分は多い。
ナムチェバザールでの生活描写は無く、深町もストーリーテラーに終始してしまったが、これはこれで良い仕上がりである。それぞれの人間描写は希薄になったものの、彼らが持つ理想と、それに向かう姿勢がシャープに描き出されていた。
また、これで興味を持った人が、原作を読んでもっと楽しめると言う良さもあるはずだ。

ただ、ジャパニメーションに慣れた者にとっては、大味な描画でベタ塗りの人物の表情に違和感を感じたのは事実。ただ、その不足分を声優が演技でカバーしてたため、鑑賞に支障はなかった。
写実的な風景描画に対して、あそこまで浮いて見える人物の描画は、何かの意図があってのものだろうか?それとも人間とは、風景と同等に描いては不十分になるほど細かさが要求されるということなのだろうか?
ただ、不満を抱いたとしてもこの程度で、それよりも外国アニメ映画で、日本の時代感を的確に表せているのには圧倒された。強いて言えば、深町の部屋の炊飯器が謎のマシンっぽくなっていた程度、それ以外は見事に昭和・平成の描き分けや雰囲気作りができていて、素晴らしかったな。

人物の内面よりもその生き様、そして映像美などに重きを置いて描かれているようだった。原作漫画にはドラマがあり、迫力のある見開きなどもあったが、この映画の良かったところは、空気感を感じられた所。

自分がその身を置いたら震え上がりそうな大自然のスケール、そして見てるだけで凍えそうな情景。氷河の迷路に切り立った氷壁、軍艦岩にクーロワールなど、エベレストに登ったら見れるのは一体どんな風景なのか…漫画絵からでは体感できなかった隙間を埋めてもらえていたのは嬉しかったな!

さながらドキュメンタリーを観ているようだった…もちろん傑作の!
柳之貓

柳之貓