真田ピロシキ

神々の山嶺の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

神々の山嶺(2021年製作の映画)
3.8
オッサンが山を登るだけのアニメです。巨乳の若い女なんかいません。出てくる女の人はずっと前に山で弟を亡くした中年女性だけです。そこに派手さなど全くない。求道的に山を目指す羽生、彼と彼が持っていると思われる伝説の登山家マロリーの遺品を追うカメラマン深町。お互いに色々な感情を抱いているが、それを大声でぶち撒けるようなことはなく、雪山なのもあり静かに想いを燃やしながらそれぞれ先へと進む。日本のエンタメ系は実写もアニメもとかく叫びたがる。叫ぶことでしか感情を表せず客も読み取れないと言うように。演出が貧相なんだよ。

派手でなくても地味ではない。垂直に聳え立ち何者をも拒まんとする山肌の威圧感、擦れるザイルの摩耗と音、確かに風と寒さを肌に感じる演出、8000メートルを超えて襲いかかる低酸素の恐怖、山頂に到達しても仄暗い中に薄く照りつける太陽。それらはありがちな日本製アニメの見せかけのエモさなどより圧倒させる豪華さを持ったアニメーション。これを作れてヒットしたというフランスが羨ましい。ジャンプ!バトル!美少女!ガンダム!異世界!だらけの日本より成熟したアニメ文化がありそう。日本の大人向けって公権力をリアルっぽく描いてヒーローにすれば良いと考えてる幼稚なのが多いし。作風ではこれに近い押井守すらSFというジャンルが求められ、高畑勲も今敏もいない。泣ける。

日本漫画が原作なのを差し引いても、日本描写の正確さに外国作品であることを驚かされる。飲み屋のメニューに至るまで完璧で、ちゃんと日本語が分かる人が深く関わっているのだろう。エキゾチックジャパン以外に興味がないハリウッド映画とは大違い。深町の本棚に鉄コン筋クリートと寺田克也画集があるのは原作準拠なのかな?フランス人が好きそうだしアニメオリジナルかもしれない。

何故危険を犯して登るのかは自分でも説明のつかない抑えきれない衝動に取り憑かれている。きっと登山家に限らず極限に挑む人はそういうものがあるのだろう。自分は軽くしかアウトドア趣味をやらない人間なので本作とは対極にあって『ゆるキャン』系スタンスの方が共感できるのだが、そういう作品ばかりではやっぱりいかん。ガチに触れることも大事なのだ。