あんじょーら

神々の山嶺のあんじょーらのレビュー・感想・評価

神々の山嶺(2021年製作の映画)
2.9
信頼できる友人Kくんのオススメなので観ました。


原作夢枕獏 絵谷口ジローの山岳漫画をフランスで劇場用アニメーション映画として完成させて、逆輸入の形での日本で観られるようになった作品です。なので、字幕版を観ましたけれど、吹き替え版で良かったかも。原作も日本で、固有名詞も日本語なんですけれど、つい字幕を選んでしまいました・・・


昭和40年代?くらいの日本。ジャーナリストで写真家の深町はひょんな事からエベレスト初登頂の謎、ジョージ・マロリーのカメラについて知る事となり、その際に見かけた男で孤高のクライマー羽生を追って取材を始めるのですが・・・というのが冒頭です。


伝説的な天才的クライマーである羽生の過去を深町が調べる事で徐々に明らかになる羽生という人物のキャラクター、そこにエベレスト初登頂に命をかけたマロリーの謎が絡んでくる非常にサスペンスフルな映画になっています。


魅力的なのは羽生というキャラクターですし、そこを知りたい、と願う深町、深淵を覗く者は深淵からも覗かれている、という感じで、傍観者的な立ち位置から飲み込まれていくのが上手い演出てして効いています。


あるポイントを明かさなかったのも秀逸。


私は男性という生物、もっと言えばオスという生物が生まれた過程でより強い好奇心とか無駄を好む傾向が与えられたのではないか?と感じるのですが(福岡伸一著「できそこないの男たち」をご一読下さいませ)その中でも、狂気に近い、憑りつかれた感覚を如実に示してくれます。ここまで『何か』に執着出来る事がある、というのは幸せな事なのかも知れません。


キャスリン・ビグロー監督作品、キアヌ・リーヴス主演「ハート・ブルー」のパトリック・スウェイジのようなスリル・ジャンキーの様でもあります。


しかし、調べてみると、この夢枕獏先生の原作にはモデルとなっている人物が居て・・・という感じで、どこまで現実に即しているのか?を映画鑑賞後に調べるのは面白いです、ですが出来れば鑑賞後の方がカタルシスは大きいと思います。


もちろん、あまり褒められる感じのキャラクターではないです、この羽生さん・・・天才的ですが独善的で、しかし、そうなってしまった、という部分も非常に理解出来る、そういう風に育てられてしまった、という部分にリリシズムさえ感じます。


そして追う深町というキャラクターを時々映画でも小説でも見かけますけれど、この知りたい、という動機に突き動かされる様を恐ろしくも思えます。羽生に魅せられていく様子が恐ろしいのです。これもデビッド・フィンチャー監督作品「ゾディアック」の主人公のような・・・


それと、当時の、いわゆる昭和の日本がかなり細かく再現されていて、昭和という時代の良い部分も、そしてヒドイ部分もあるのが理解出来ます。フランス人監督はよくここまで再現したなぁと感心しました。


人間って本当に不思議な生き物ですよね。リュック・ベッソン監督の「グラン・ブルー」の登山バージョンとも言える。確かにフランスで人気が出そう。


登山に興味のある方、そして極限状態に置かれてこそ生きている、と感じられてしまう人に興味がある方にオススメ致します。