「レンタル家族」サービスに依存するメンタル崩壊青年の話と受け止めました。主演の村上虹郎の演技が光る、不思議で切ない短編映画です。
舞台は郊外の素敵な一軒家。主人公の「お兄ちゃん」(村上虹郎)は「お父さん」「お母さん」高校生の「妹」と夕食を囲みます。メニューは唐揚げ。絵に描いたような、平凡だけど幸せそうな食卓風景です。
でも、なにかが違う。違和感を感じるのは、家族会話の中身です。話の内容に具体性が全くない。父の仕事も、母の家事も、妹の学校生活も言の葉に上りません。
※以下、ネタバレ含みます。
「いただきます」(全員)
「学校?普通」(妹)
「普通はないだろう」(父)
「普通でいいじゃない(笑)」(母)
その時、隣家に引っ越してきた一癖も二癖もある夫婦が、挨拶に来ます。「家族団欒」を乱され、静まり返る家族。「そろそろ、いいですか。食事中なので…」と切り出したのは、主人公でした。
そして、上がり込んでいた夫人が犬をつれて帰ると、主人公は「俺に妹なんかいったっけ?てか、あんたたち、誰?」と叫び、トイレに駆け込んで嘔吐します。主人公が、無意識のうちに申し込んだレンタル家族と食卓を囲んでいたことに気付き、自己嫌悪に陥った様子を強く示唆する場面です。
ネタ空かしは、エンドロールの後に訪れます。写し出されるのは、公衆電話ボックスの汚れたガラスに指で書いた文字。
「本当の家族になりませんか」ー。
見事なラストです。
「お母さん」の話しぶりだと、主人公は毎週土曜日の夜、レンタル家族と食卓を囲んでいるようです。実家との縁が切れた主人公が、貴重な土曜日の夜、自らを癒すために偽りの家族に甘えている風景を垣間見た気がします。切なさがじんわりと伝わってきます。
抽象的な描写が多く、ほかにもいろいろな解釈が成り立ちそうな作品です。良作だと思います。