テーマは大仰だが凡庸なドキュメンタリー映画だった。
映画の序盤はドイツ軍の侵攻、中盤は赤軍の反撃、終盤は戦後のバビ・ヤール事件に関する法廷の記録フィルム・・・と、主題になるはずの事件は勿論、ホロコーストの映像はほとんど無いので驚く。
ロズニッツァの観察系とかアーカイヴァル映画は、既存の宣伝映画や通常のノンフィクション映画と、記録素材の間ぐらいの体を取っているが、その実、只のドキュメンタリー映画だ(別に悪い事では無い)。
さも生の素材を並べ立てて・・・視聴者が観察して新たな気づきを得て欲しい・・・という趣旨を装っているが、実際は編集をしているのは無論、音声もかなり付け足して作為されたフィルムで、並べ立てる素材の量を増やす事で意図的な臭いを薄めているに過ぎない。
後は、その場にいるような臨場感を狙っているのだろうけど・・・。
これが成り立つのは『国葬』『粛清裁判』の様に、一本の映画を作る為に撮り溜めた大量のフッテージがあったからであって、ホロコーストをテーマにしたら、この手法が成り立つハズもない。あれは秘密作戦だったのだから。アウシュビッツの映像がほぼ無いに等しい事の意味である。見せるつもりの物と、隠そうとした物の落差。
(こういう言い方は不謹慎かも知れないが)一つ一つのフッテージがさして面白くないので見飽きるし、映像の情報量が少ないので、今回は文字情報が多い。
興味深いフィルムや貴重な記録がないわけではないけども・・・。
ソ連が撤退した後に市民がユダヤ人をリンチするシーンとか、ウクライナ人の捕虜を家族に引き取らせるシーンとか、NKVDによる爆弾事件の現場映像とか、現リヴィウを再占領した赤軍とポーランド人民軍の将軍が演説するシーンとか・・・。
内容としては、ウクライナはベルリンとモスクワの為政者に翻弄された・・・ホロコーストにはウクライナ国民も積極的に荷担してた・・・という内容なのだが、だったら70分くらいで普通のドキュメンタリー映画としてバチッと撮れよ・・・とぼやきたくなる。
ロズニッツァの観察系とかアーカイヴァル映画って、大仰だけどそんな大した事言っていないし、視聴者に判断を委ねる体を取った非常に無責任で言い訳じみた作品群に見えてきた。