藍紺

ケイコ 目を澄ませての藍紺のレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.2
コロナ禍の東京、耳の聞こえないプロボクサーであるケイコの日常を描く。16mmフィルムのざらついた映像がこの映画にはとてもよく似合っていた。街を横切る河川、河川敷、首都高……。この風景こそが地方在住者である私が思う『ほんとうの東京』なんですよね。

マスクを自分からずらしてケイコに語りかける同僚女性、耳が聞こえないと気付いても、なおマスクをしたままケイコを尋問する思慮の足りない警察官。自分は前者のような振る舞いが出来るだろうかと考えてしまう。
ケイコは人から簡単には分かられたくない側の人で、何を考えているのかも分かりにくい。自分から歩み寄ることもしないし、母や弟といった肉親でさえ寄せ付けない。そしていつも何かに怒っていて、でも自分でも何に怒っているのか理解していないようにも見える。
ボクシングこそがケイコの自己表現の手段であり、リングの中拳を交える彼女は非常に雄弁で獣のようにカッコよかった。

ラストシーン、賛否あるようだが私はとても好きで涙が溢れた。いつも険しく敵意剥き出しだったケイコの表情がふと崩れた瞬間、あの時彼女が何を思ったかを理解できた気がして温かい感情で胸が満たされた。
劇伴が極端に排除されていて無音のシーンも多かったが、ミットとグローブの音が心地良く今も耳の奥に残ったまま忘れられない。
岸井ゆきのさん、スパーリングの動きがボクシングを初めて3ヶ月の人とは思えないw
彼女の圧倒的存在感と説得力のある眼力に釘付けでした。佐藤緋美さんも達者すぎる!あの若さでこのナチュラルな演技、末恐ろしい……。
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