聴覚障害で耳の聞こえないボクサー・ケイコを描く、実話を基にしたフィクション作品。
静謐にして豊潤、ことばでは言い表せない感情が描かれた「映画的」としか言えないような素晴らしい作品でした。
聾者から見た社会の生きづらさの描写は最低限かつクリティカル。自身の想像力の欠除をえぐられるような鋭さがありましたが、本筋はあくまで万人に共通する孤独感や、それでも人はひとりではないという優しく力強いメッセージを伝えるものであったと思います。
音楽らしい音楽はほとんどかからず、街や室内に響く生活音が際立ち、強烈な現実感と没入感をもたらす音響設計も見事。
フィルム撮影の粒子感にあふれた撮影も素敵でした。
主演の岸井ゆきのの言葉によらない表情や、タイトルにもある「目」の演技が、ひとことでは言い表せない豊かさ、力強さで素晴らしい。三浦友和演じるジムの会長と鏡の前でシャドーを打つくだりは思わず涙があふれました。
評判に違わぬ素晴らしい作品でした。
この静謐さを味わうには、やはり劇場での鑑賞が必須と思うので、ぜひ映画館までお運びいただきたい一本です。