ゆう

ケイコ 目を澄ませてのゆうのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.2
これは聾者ボクサーのストーリーだけど、孤独に闘うボクサーの讃歌だ、素晴らしい映画ですね。
岸井ゆきの、なんでもできるな…神がかり的な演技だ。相当なボクシングの練習もしたんだろうな…。
主人公のモノローグや発言なしで、こんなに内面を表現できるものなのか。その演出をしている三宅監督も凄いんだろうな。

人と人は結局分かり合えない。言葉が交わせなければなおさら。そもそも分かろうともしていないのだ。マスクを外して唇の動きを見せる。ゆっくり話す。音声入力を文字に変換するデバイスだってある。何もしないのは知らないからで、知ろうともしていないから。だからケイコの世界は我々の世界とは断絶していて、実の弟にも「話したって人は1人だよ」と言い放つ。
聾者?の友人たちと手話だけで食事を楽しんでるシーンが象徴的で、90分の中で唯一聴こえる側が逆に置き去りにされたシーン。でもケイコの世界は産まれてからずっとこうなんだろう。

ケイコの居場所はやっぱり荒川ボクシングジムと、会長たちと過ごした時間だったんだね。分かり合えないけど、分かろうとして繋がること。言葉にすると心底陳腐だなと思うけど、これを終盤のモノローグと美しい映像で表現した三宅監督天才だな。

描かれてないことを言葉にするとこれも陳腐だけど、ラストの悔しさとか闘志とか色々な感情がごっちゃになったケイコの表情と、次のジムのオーナーは、分かり合えないものをなんとか分かり合おうとしてくれる人であること、きっとケイコのボクサー人生はまだ続いて、そしてその先行きは明るいことを示唆していてじんわりした。
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