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ケイコ 目を澄ませてのKtoのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.0
16mmフィルムの静かで耽美な映像が素晴らしかった。河川敷の夕景、夜の電車の灯り、朝焼け。2020年の東京なのに、フィルムを通すことでどこか懐かしい心象風景になってた。

夜の河川敷で、ケイコの上を通り過ぎる電車の光が、橋と影を作って点滅して見えるところがとても美しかった。クラブっぽい。

聴覚障害が障害ではなく一つの個性としてケイコの一部になっていたのが印象的。愛想笑いができなくて、不器用かつ真っ直ぐで、負けず嫌いな性格。"聴覚障害"による種々のハンディキャップ(コンビニのポイントカード、マスク外さないと唇が読めない、怒鳴られても気づかない、ゴングが聞こえないetc…)も、それ自体の是非は問われず、周りの反応を含めた総体として"ケイコらしさ"に取り込まれている感覚。

公式パンフレットによれば、三宅監督と岸井ゆきのはリング上でスパーリングをやったそう。気を遣ってあまりパンチを繰り出さなかった監督に対して、岸井ゆきのが「遠慮しないで下さい」と言ったらしく、本気で闘わないのはリスペクトを欠いた行為だと監督は気づいたそう。会長も全く同じことを言ってるよね。

三浦友和は流石の存在感。現場でも「何も語らずともこの人がいれば安心だ」と思わせる精神的支柱だったそう。
会長とのシャドウイングでふと溢れる涙、コンビネーションで突然泣き出すトレーナー。人間は体が動いてる時に情動も動くのかもしれない。

2021年のリコリスピザ、私は最悪にも通じる、"反・ファスト映画的(=タイパ主義的鑑賞)"映画。99分の尺で、ケイコのように目を澄ませて観るべき…。

見終えた後に振り返ると、英題の"Small, Slow But Steady"が非常に巧みだなぁと思った。
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