ぶみ

ケイコ 目を澄ませてのぶみのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.0
昨日は、休日出勤の代休が取れたため、久々に三本はしごを朝昼晩で敢行しました!
そして、その一本目かつ1400本目となるレビュー作品がこちら。

逃げ出したい、でも諦めたくない。

プロボクサー小笠原恵子の自伝『負けないで!』を原案とした、三宅唱監督、岸井ゆきの主演によるドラマ。
生まれつきの聴覚障害により両耳が聞こえない主人公ケイコの姿を描く。
原作となる自伝は未読。
公開当時、近隣のスクリーンで上映していなかったものの、ここに来て、行きつけのシネコンでセカンド上映が始まったため、迷わず本作品をチョイスした次第。
主人公となるケイコを岸井、所属する事務の会長を三浦友和、その妻を仙道敦子、ジムのトレーナーを三浦誠己、松浦慎一郎が演じているほか、佐藤緋美、中島ひろ子等が登場。
物語は、ホテルの清掃員とプロボクサーの二足の草鞋を履くケイコの日常が綴られていくが、16mmフィルムで撮ったとされる映像は、ざらつき、輪郭が弱いため、コロナ禍が登場する現代の話でありながら、どこか一昔前の時代の話のよう。
それに拍車をかけるのが、昭和感溢れるジムの建物や内装であり、スケジュール管理等もアナログ感満点。
そして、ケイコの耳が聞こえないことから、無駄な台詞や劇伴が極力廃され、印象に残るのは生活音やジムに響き渡るミットの音であり、本作品の静けさを印象付けている。
何より、これはもはや言わずもがなのだが、普段の生活シーンも含め、耳の聞こえないボクサーであるケイコを、力強くかつしなやかに見事に演じ切った岸井の演技には感服の一言であり、彼女を見守る人々の、時に厳しく、時に優しい視線も素晴らしいものばかり。
また、障害の有無が一見ではわからないため、それを初めて知った時の市井の人々の反応も非常に自然で違和感なしであるとともに、公人である警察官二人の反応も、実際にありそうなものであり、何気ない光景ながら、痛烈な皮肉も垣間見ることができる。
雰囲気も内容も、静かなる力に満ちており、素晴らしいものなのだが、ケイコにとって何故ボクシングだったのかが、本人の思いとしてもう少し語られるシーンがあれば、もっと良くなったのではとも思った次第。
特に、映画的なドラマティックな展開があるわけではなく、所謂「面白い」と形容するような作品でもないが、良い映画であることは間違いなく、フィルムから零れ落ちそうになるケイコの心の声を受け止められるかどうか、観る側の度量が試される良作。

勝手に人の心、読まないで。
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