hawelka1992

ケイコ 目を澄ませてのhawelka1992のレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.0
ボクシングの師弟モノ、というのは定番で、これだけよく描かれるというのは、何か特殊な関係性が構築されるからなのかな?と、ミリオンダラー・ベイビー、明日のジョー、はじめの一歩、クリード、などを思い起こしながら観ていた。

主人公が耳が聞こえないからなのか、劇伴もなく、それが映像を際立たせる。静かで、淡々とした、ある種侘しさも感じさせるが、美しい映像。

耳が聞こえない、という障害が、やはりボクシングでは不利だし、当然ながら様々な面で、障害となる。ただ、考えてみれば当たり前だが、この障害でボクシングができない!みたいな一つの劇的な問題で、皆が協力すれば、どうにか乗り越えられる、という類のものではなく、小さな努力を要することの膨大な積み重ねだ。そこに日常を感じる。本人は、透明なバリアに疲弊し、意識的にも無意識的にもさまざまなことを諦めるし、周りの人も親切ではあるが、そこに気づくことは難しい。

当たり前の日常なので、何かに全振りしていることもなく、さまざまな人と関わる。ケイコは最後の試合、どうしても勝ちたかったろう。それでも、相手には相手の事情があり、想いの強さで闘いは決まるわけではない。それでも、と、抗いきれない悔しさと、諦めきれない何かがあること。それは幸福なんだろうな、と思ったら泣けてきた。

目立つものでは無いかもしれないけど、世界の片隅に生きる人の、日常の大変さと、そこにある美しいものを丁寧に描いていて、とてもよかった。
hawelka1992

hawelka1992