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ケイコ 目を澄ませての8637のレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
3.9
そのすべてが、彼女には聞こえない。

"聞こえる"とはいえ、こんなにも多くのものを削ぎ落とした商業映画なんて初めての感覚だった。そんな中エッセンスの一つに織り込んだのが、兄弟の作る音楽であるというあまりの残酷さ。ケイコが聴覚障がい者であることで生じる社会とのずれを、健常者である観客は筋書きの一つとして面白がって見つめる。青コーナーから迎え打つ相手や畳まれる居場所など、彼女が見つめる逆境を示唆するようにも感じた。
自分の体調が万全じゃなかった事が悪いが、静かすぎて起きていられなかった箇所もあった。

彼女たちの生活の中に内包されたコロナ禍を微かな利きとして、2020年の日本を16mmで撮り下ろしたその風景は至高。時に自主映画のような安さを感じるショットもあれど、それには躍動してしまう。今作が三宅唱監督史上最も、メジャーで才能を発揮できた映画なのではないだろうか。
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