轟轟とした車の音、重いゴングの音、劈くようなストップウォッチの音、ジムで練習生に掛けられる怒鳴り声。
鑑賞者には際立つ環境音はしかし、ケイコには聞こえない。喧騒の中で1人静かさを身に纏っている。この対比は映画館での鑑賞体験ならではの効果だと思う。
本作を見ていて、特に彼女の熱の持ち方が印象に残った。熱がある体調の悪い時は勿論、身体が心についていかない際の微妙な不調子まで。身体は熱いのに心は冷めていて、アンマッチな心身に戸惑う様子からは鑑賞者側でも、もどかしさを覚える。新しいジムでも同様に冷えた心を、対照的に会長との2人での練習、林や松本との練習では信頼しきった温かな心情が見て取れる。ラスト、彼女は力強く再び燃える。
目だけでこれほどまでに物語れるのか、とか最初は客観的に観ていたけれど、
彼女のイライラしている気配を感じたり、結構笑い上戸なんだなと思うシーンもあって、終盤はかなりケイコを身近に感じられた気がする。
また、2020年〜2021年の話なのに、林がガラケー使ってたりとジムの様子は昭和〜平成そのもの。時代を象徴するような場所が、一区切りついていく過程の描き方も良かった。
ところで、ムーンライトシャドウに引き続きここでも佐藤緋美と中原ナナがカップル役で嬉しい。こんな邦画にはもう欠かせない。引き続き2人にも注目していきたい。