このレビューはネタバレを含みます
鳴り止まない喧騒とともに観客の目に映しだされる16mmフィルムの世界は、ケイコが目を澄ませて見ている世界とは全く対照的なものだろう。
冒頭のボレロのように重なり合っていくジムの練習音や何度も挿入される不快なまでに騒々しい電車の通過音など、本作は16mmフィルムの撮影以上に音響にこだわりのある作品だと感じた。
岸井ゆきのと三浦友和の芝居が素晴らしく、とくに鏡の前で二人でシャドーをするシーンでは、擬似的な父と娘の像が立ち上がり泣いてしまった。あんなに優しい発声をするボクシングジムの会長をいまだかつて見たことない。