のん

ケイコ 目を澄ませてののんのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.5
音を観る映画だった。

主人公がろうあ者であるが故、セリフがほかの映画と比較して少ない。ノイズが少ない。綺麗な音。こんなに集中して観た映画は久しぶりだし、劇場で見るべきだったなと後悔している。
手話が多く登場するから、字幕の編集が普通の映画にはないものですごく面白い。すごく面白かったしそれがとても良い。

生活音を 観ている 魅せられている

他の映画では撮らない音を綺麗に撮っていて、本当に画よりも音をみせられた。これに尽きるかも。

ケイコの息づかい、窓の外から聞こえる雨音、土を踏む音、東京を走る車の音、朝の鳥の鳴き声、携帯から聞こえる試合の音、古びたドアが閉まる音、立ち上がる時の服が擦れる音、汗が滴る音、信号が光り出す音、川の水が跳ねる音、全部キレイで全部みえた。

岸井ゆきのさんがやっぱり演技が上手い。話せないのにちゃんと感情が伝わってくる。声を出すシーンが片手で数えられるほどしかないのに、こんなに伝わってきて目で話してくる。ケイコの性格上そんなに感情豊かではないというか表情筋がすごくあるキャラでは無いのにちゃんと伝わるの不思議。尊敬する。才能がある。本当に、すごい。

その演技力と全体的なシナリオから、ケイコの正直さが少し痛苦しい 生きている という泥臭さが見えて、本当に良かった。

ただセリフがなくて、キャラクターに元々のハンデがある分、あんまりストーリーに大きな波がないから人によってどう思うか分からない。思想が強い訳でもなくて、坂元裕二作品のような一部の人間に寄り添うような複雑な人間設定がある作品でもないし、特別すごく泣ける話な訳でもない。ただ作品全体の雰囲気がまとまっていて綺麗な作品ではあると思う。色んなところで絶賛されてたけど、全員に価値がわかる作品ではないように感じた。なんていうかちょっとレベル高いっていうか、私はこれを良い作品だと思えたけど 良い と 面白い は違うしなんか難しかった。テーマも難しかったし。画と音へのこだわりはとても感じられて、制作スタッフのこの作品への愛がにじみでててよかった。

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