音のない世界で生きる彼女はボクサー。
この映画は、決して他人ごとではなく、もがきながら今を生きる人たちにも共感してもらえると勝手に思っている。
ストイックにボクシングに打ち込むことで何かを押し殺しているようなケイコ、蔑んだ眼差しで世間を見下しているような表情からは、感情のままに突き進む虚勢を張った彼女と、等身大の自分の狭間で葛藤している彼女が対峙している。自分に素直になれないまま毎日が過ぎていく。あぁ、こんなはずじゃなかったのになってどこかで思っている自分と重ねる。
岸井ゆきのさんがアカデミー賞主演女優賞をとったということもあり、どんな映画か気になっていた。役作りでは実際に食事制限をしたり、増量したりと大変だったそうだ。彼女自身もケイコとおなじようにストイックであり、役作りを徹底して突き詰めたリアルさが滲み出ていた。
全体的に誰かの日常を追いかけているようなカメラワークが印象的で、ドキュメンタリーかと思ってしまうようなタッチが多かった。無駄な音楽も流れず、生活音が心地よく響いていた。
冬の寒さに手が霜焼けるそんな風を感じた。