囚人13号

ケイコ 目を澄ませての囚人13号のレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.0
劇場で観たときも言葉が出てこなかったし、それを新作にむけてスマホで再見しようとやはりメモ程度にしかならなかった。

謙虚という表現は余りに言葉足らずだし、ショット次元においても予想外が殆ど起こらない映画であるが、勿論単にフィルムだからといってこれを他の作家が撮れるとは到底思えない

河川敷はロケーションが良いんだけど、高架下の昼間と夜景といったように都内とロードワークの俯瞰としてシンプルに対比されることで映画に組み込まれ、素晴らしい"ショット"へ昇華する

聴覚というより台詞へ決定的な意味合いを含ませないことで言語とサウンドを切り離し、必然として後者が際立つ世界においても記号的な"音"すら享受し得ない恵子ほか、何らかの弊害を抱えて生きる人々を一貫して弱者として扱わない姿勢から三宅映画の情動は生じているように思う

声のコミュニティから疎外されて生きることを障害者として処理せず、現に音の断絶=コミュニケーションの不成立による困難が真正面から描かれているのは職務質問と終盤の試合(反則アピール)のみである

あと主観ショットがひとつも無いことも主張しておきたい

必然のみで紡がれていく日常への感情移入は断ち切られ、試合シーンだけはそれに限りなく接近しているが先述のアピールや叫び声は誰にも届かない
しかしラストの切り返しこそ誰でも体験しうる痛みであって、つまり恵子と我々の共通感覚=唯一感情移入できる「儘ならなさ」を映画的な誇張を纏わせることなく、ただそのままの感情として提示し去っていく

東京物語みたいな船のカットにも生活音が響いてくるが、やはりそれに決定的な意味はない
囚人13号

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