ゆう

ケイコ 目を澄ませてのゆうのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.8
「夜明けのすべて」が名作だったので三宅監督過去作も鑑賞。
最新作に負けず劣らず、極めて完成度の高い作品であった。

静かな映画である。
音楽が一切ないだけでなく、スポ根的な、地から這いあがるようなドラマチックなシーンもない(むしろ主人公・ケイコは勝利を決めたのに進退に悩む)
ケイコの過去は直接明らかにされないが、彼女の立ち居振る舞い、もっと言うと彼女の目が、容易ではなかったであろう半生を語る。
三浦友和ら脇を固める名演もさることながら、岸井の目で語る演技は卓越している。

本作の特徴は、ケイコも、ケイコを取り巻く人物も、聴覚障碍を特別視していないことである(「夜明けのすべて」でも同様の傾向がみられる)。

障碍者に対する無意識的差別は現代社会の病巣であると考えている。
聴覚障碍でいうと、聞こえる者と聞こえない者は根本的に異なる、とか、聞こえない者はハンデを負っていてかわいそう、という思い込みが、無意識的差別の象徴である。残念ながら、昨今でも当たり前のように、ドラマなどで描写される。

ケイコは聴覚障碍を言い訳にしない。
彼女の悩みは障碍に起因するものではない。
最終的に前を向いて歩みだしたきかっけも障碍は無関係である。
聞こえる者、聞こえない者ともに全く同じ人間であるという当たり前の事実を我々に突きつける。

本作では、最新作と同様、悪者が登場しない。一方で、完全な善人も登場しない。
でもそれが我々の置かれた日常である。皆、自身に存在する悪と折り合いをつけながら、必死に前に進んでいるのである(例外はあるが)。
あまりにも等身大な登場人物たちが強く前を向いていくラストシーンは大きな感動を禁じ得ない。

後年に語り継がれるべき名作である。
ゆう

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