田島史也

ケイコ 目を澄ませての田島史也のレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
3.3
聴覚障害者を扱った三宅作品

三宅作品らしいな、という印象。夜のショットが多く、フィルムのホワイトノイズがかかり、暖色強めのカラグレが施され、三宅作品の出来上がり。

意味付けされない風景ショットも多く、現実の風景をカメラで型どるという、三宅独特の手法に組み込まれていた。正直、過剰だったようにも思う。

本作は「音の映画」と言って良い。ミットの音、電車や車が頭上を過ぎる音、おじさんの怒鳴り声、試合の熱狂。健聴者には際立って聞こえるこれらの音が、それとなく強調されることで、聞こえないケイコの世界が表現された。聴覚障害者の世界を再現するために無音のシーンを組み込む作品は多くあるが、逆に、ある音を耳障りな音として認識させることで、ケイコにはそれが聞こえないのだと理解させる演出はなかなか珍しい。しかし、物語的な省略なのかもしれないが、振動が無視されていることは気になった。足音が聞こえなくても振動はあるし、電車の通過音が聞こえなくても地面は振動する。ケイコが毎回視覚によって初めてなにかに気づくというのは違和感がある。

ストーリーが単調であるため、通常よりも、映像や音が重要性を増す。正直、かなり危ない橋を渡ったなという印象。映像の組み方、整音、テンポ、それらのひとつでも欠けたら作品として成立しなかったのではないかと思う。

なんというか、初めから80点を目指して作られ、80点の作品になっているという感じ。

あと、手話指導は入っているが、実際聴覚障害者が観てどうなのかは分からないから、評価が難しい。外国映画に出てくるエセ日本語みたいな感じになってしまっているんじゃないか、と思えてしまう。私からするとなんの違和感もないことは確かだが。

コロナ禍を組み込んでいるのは良い。聴覚障害者にとって人々がマスクをするという状態はかなり大変。会長の妻がケイコの前では必ずマスクを外すというのが、印象的だった。


映像0.7,音声0.9,ストーリー0.6,俳優0.7,その他0.4
田島史也

田島史也