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やまぶきのyukoのレビュー・感想・評価

やまぶき(2022年製作の映画)
5.0
自分の人生を生きてるというだけで、もしかしたら自分が誰かにとっての加害者になっているのかもしれない。
そのようなことがたぶん、とても静かにスクリーンに写されていました。山吹が冒頭からずっと読んでいる文庫本は私も大好きなあの本だと途中で気付いて、そのことだけでもうたまらない気持ちになってしまう。届くか届かないかわからないような声たちと、小さな物語たちがずっとありました。そのスクリーンに山吹のこちらをみる顔がうつって固まる。それから馬の目がうつって本当に優しいなとみていたら、その艶々とした真っ黒な目に「8万」の洋服を着た、チャンスにとっての大切な人が突然うつって鳥肌がたつ。

「社会的なメッセージを生々しく語るより、フィクションの構造を強くした方が映画として突き刺さるものが増すのではと意識が変わっていった。」

この山崎樹一郎監督の言葉のなかに、同じ時期にのんびりと読んでいた東畑開人さんの本のなかの、「しかし、大きすぎる物語は、小さな物語を想像することをとてつもなく難しくする。」という文章と通じるものもあって、はっとしてしまいました。

また何回でも観たい。特に山吹が図書館でとても嬉しいことを一番嬉しいひとから言われて、あの宮沢賢治全集を口にあてる場面は死ぬまでにあと百万回くらいは観たいです。素晴らしい映画でした。

「映画は声なき声を可視化する。表現の果たせる大いなる役割を当たり前のような静けさでやってのけてくれた作品でした。」

深田晃司監督のこの言葉を、観終わったあとに読めたのも嬉しくなる。あと高橋源一郎さんの言葉も。
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