都麦

なっちゃんの家族の都麦のレビュー・感想・評価

なっちゃんの家族(2022年製作の映画)
3.9
半年前、俺の所詮23年の人生をかけた映画の主演を決めるオーディションに、ある俳優が応募をしてきて、なぜか俺は書類の段階から、その人から目が離せなくなったわけだが、その人の好きな映画が『なっちゃんの家族』だった。それがキッカケで猛烈に観たかった映画なのだけど、猛烈に“観たい”という気持ちが強くなりすぎて、誰が好きな映画だったかを忘れていた。誰かの好きな映画が観たいだなんて、啓くんくらいしかいないかなぁなんて思いながら、でもどうだったかなぁとか思いながら、上映前本人に「なっちゃんの家族好きなのってニキだっけ〜?」とかLINEした。そんなに観たかった映画を、今日ようやく観られて、クレジットに入ったとき、あぁ、きっとこの映画を俺に教えてくれたのは啓くんだし、これは啓くんの好きそうな映画だと思った。つまり、この映画はやさしくて暖かくて、人の弱さや切なさと、ばあちゃんの家での布団の敷き方を知っていて、俺はこの映画がとても好きだった。

偶然にも5日前、俺もばあちゃんの家に逃げた。なんだか猛烈に、東京という孤独に耐えられなくなったのだ。ただ帰って、ただばあちゃんと押し入れから布団を出して敷いて、ただじいちゃんとばあちゃんとご飯を食べて相撲を観てた。それだけだったのに、帰ってよかったと思った。そして、夕飯の皿を洗っているときと、駅まで送ってくれる道中の2回、ばあちゃんは「(ここには)いつでも帰ってきていいからね」と言った。その言葉に、どれほど救われたことだろう。よくわからないけど、確かにあの時自分は救われた。そのことを、知っている人の映画だった。

なっちゃんの両親も、なんだか昔の俺の両親に似ていた。嫌いなところも、凄いところも、そうならざるを得なかった背景も、なんだか似ていて、痛いほどよくわかってしまった。これは知ってる人にしか描けない映画だと思った。

「母親を知りたい」
アフタートークで道本監督は言っていたけど、ほんとうにこの人は、心のどこかで母親から得られるものが欠落していて、けど、母親を愛している人なのだと思った。こういう人の作品は、かならず人を救うから、ずっとずっと、自分のために、映画を作り続けてほしいと思う。そのことに今日俺は、救われたのだ。
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