せいか

ポスト・モーテム 遺体写真家トーマスのせいかのネタバレレビュー・内容・結末

1.0

このレビューはネタバレを含みます

9/10、AmazonPrimeにて視聴。
途中までは面白いけど全体的には佳作みたいな作品。

タイトルの「Post Mortem」はラテン語を用いたもので、一般には「検死、事後分析・事後議論」の意味で用いられている。直訳すると「死んだ後」。事後分析とは、あるものを実行・処理したあとにそれを分析することで、特に異常終了後のチェックに対して用いられる。本作では素直にラテン語を直訳した意味合いのほうが採用されている。

舞台はハンガリー。主人公はWW1で負傷し、一度は死んだものとして危うく他の死体と共に埋葬されそうになっていたところで息を吹き替えした人物。大戦後、ハンガリーはスペイン風邪にも悩まされており、その中で遺体の写真を撮る写真家として活動している。
この遺体の写真というのは検死的な意味のそれではなく、遺体をまるで生きた人のように着飾らせ、座らせて、まるで写真館で撮る写真のように撮影するというもの。作中では生きた家族と共に並べて撮影してもいる。

大戦後の市場のシーンでも工業物の名前がPost Mortemで、死んだ後の世界はどんなものなのか生還した男から話を聞こうみたいな口上があったように(興行主は主人公の体験を誇張しつつ代わりに言っているだけで、主人公のテントと同じ所でやっている)、本作は、戦争と病など、非常に死との距離が近い話である。
主人公の写真といい、「写真」という静止して切り離した紙の上の世界なら、生きているように演出した場合は被写体が死者か生者かの境界は容易に曖昧になるんだろうなと思うと、なかなか観ていて不気味であった。後に何も知らずに写真を見る人はそれが生きた人の肖像だと思って見ることになるだろうものを生み出しているのだから(そしてまた、死体と共にこの記念写真を撮った人は、この紙の上に儚い幻を重ねることにもなるわけである)。
ともあれ、そういう写真がそうであったり、主人公が戦場で息を吹き返したりもしたように、そもそも生と死って曖昧で掴みどころのないものだよねという作品でもあったのだと思う。(作中、死の世界との近さを表現するのに土の中などから染み出る水というイメージが使われている。)
ちなみに、主人公の仕事は実在するもので、Post-mortem photographyと言われている。一般に、死体を撮っていると分かる形のものも多そうである(横たわって花に埋まっているとか)。

主人公は市場で、戦場の墓穴で息を吹き替えしたときに垣間見た女の面影がある少女に出会い、彼女の村を訪れることにする。そこは牧歌的でもあり排他的でもあり優しくもありそっけなくもある普通の村の雰囲気を宿した場所ではあるものの、やはり、戦後と疫病に荒んでいる場所で、そこはかとなく気味が悪い。
主人公は到着間もなくから妙な雰囲気に侵されながら、晩には霊障にも悩まされるようになり、間もなく村全体が露骨にそれに悩まされていく。主人公はそんな中で村人たちから仕事を請け負って写真も撮り始める(これは間もなく中断するが)。いわく、この村は地面が凍っているために埋葬が先延ばしにされており、埋められないままの死者の数がなかなかの数になっているという。かくしてホラーの舞台が整ったわけである。
少女いわく、これまでは大人しくしていたのに、主人公が来てから突然実害を持ち始めたとか(ただ、その後、村内を調査する内に、実害を伴う霊障は以前から起きていたらしいことが伺い知れる)。作中で他の村人もこういう見方をして主人公を厄介に思うような発言をする節もあるけれど、残念ながらここはかなりライトに抑えられている。そこに触れる気があるなら、外部の人間という要素を本作の題材とも合致させて、混乱の中の集団そして仲間はずれに対する迫害というのもちゃんと取り入れたほうが面白いように思ったのだけれど。
なにはともあれ、主人公は少女と共に村の怪異に立ち向かうことになる。
余談だが、検証中に死体を仮置きしている物置で死体たちがポーズを取って待機していたのはなかなかシュールな笑いになっていた。あと、子供にも容赦ないホラー作品でもある。

霊障検証に写真や録音装置を使ったりで、要はこの辺は現代にもある手法と変わらない(そして言うまでもなくこうした検証もまさにタイトルのPost Mortemに掛かっているのだろう)。それが現代的な利便性を欠いた上で成り立ってるのがなかなかおもしろいと言うか、19世紀辺りの怪奇小説的な味わいになっている。
ただ、いよいよ村内のパニックが最高潮になってみんなで逃げ惑う中、人は燃えるわ、村は湿地帯のようになるわ、死体は乱舞するわ、なんかあの世とこの世の境目みたいなところに主人公は行くわと地獄のような霊障が起こるクライマックスからは残念な感じになる。この直前の検証段階までは雰囲気もよく面白いのだけれど。なんかここからは話が勢いで片付く感じで、まとまりなくエンディングに向かう。
広げた風呂敷をきちんと畳まないまま、村の怪異は一段落し、少女と主人公はバディーを組んで旅をして、次の村へと怪異退治に向かう。そこに話を落としたのも残念である。
もっと人間社会の腐敗臭がする暗部や死と向き合ってほしかったし、生と死というものをちゃんと扱ってほしかった。題材とストーリーラインはいくらでももっと重厚にできるだけのものがあったのに佳作にまとめてしまっていたのが惜しい気持ちになる。最終的にタイトル負けしてしまっている。
せいか

せいか