ぼっちザうぉっちゃー

X エックスのぼっちザうぉっちゃーのネタバレレビュー・内容・結末

X エックス(2022年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

しっかり面白かった。
過去のホラー映画に対するオマージュ的なノリが全体を包みつつ、セオリーを破る新展開をしっかり見せてくれる。
メタ的なホラーが大好きなのでけっこう気に入りました。

映画を撮るっていう視点が作中に盛り込まれていることからもちろん、しっかりガソリンスタンドに寄ってくれるし、一見住み良い小屋に泊まるし(一つ違うのはあくまで離れ的な感じでジジババん家のそばに建ってること。この構図キモかったな、それもしっかり戦争の遺物的な説明があったりで細かい設定誤魔化してない感じが良い。昔のホラー・スプラッター映画との対比的に)、近くにそんなにきれいじゃない湖あるし、色欲に塗れたカップルがいるし。そういったメタ的な目配せが強く感じられながら、この作品からは、タイトルにちなんで、それらをフリに使った「タブー」(×)が描かれていたように思う。それは大きく分けて4つある。

まず一つ目は、そもそもの題材である「ホラー映画で性的に交わった奴等は訳もなく漏れなく殺される件」についてである。もはや不文律的なこの現象を今作では、「ポルノ映画を撮ろうとする若人たちの血気盛んな様子に嫉妬して襲いかかる老夫婦」の様として描き、そこにある種の人間的な論理性を持たせてしまったのである。これは顔も素性も分からない人間ないしは怪物に、訳も分からず殺されてしまうからこそ成り立っている、楽しめるホラー映画でありスプラッター映画の構造を捻じ曲げる、大きなタブーと言えるのではないだろうか。

二つ目、三つ目はお決まりの展開、結末に関するものだ。すなわち「ビッチは死に処女が生き残る件」についてである。今作も途中までは録音係の少女が、いわゆる処女性を担うキャラクターとしてセオリー通りの立ち回りがなされていた。タブーが犯されたのは中盤、この少女が「(ポルノ)映画に出たい」と言い出した瞬間である。この時これまで怪しくも、まだ普通のホラー映画の体裁を保っていたこの作品の軸が大きく揺らいだ。それはもう監督役が、観客の動揺を代弁するかのように見るからに慌てふためいてしまうほどに。
結末、生き残ったのは生粋のビッチ。映画冒頭からヤクをガンガンにキメていたアバズレガール。セオリーを完全に蹴散らす豪快なタブー。

そして四つ目。なにより重大なタブーは、ここまで天上の意思(ホラーの鉄則、観客の期待)に背く背徳のスプラッターに、背信のエンドに、どうしようもなくぞわぞわする高揚感と気持ちよさを覚えてしまったことだろう。まさにX(エクスタシー)。

ホラー映画の拡張、破壊と再構築は絶えず試みられ続けていて、これからも新しい進化にさらなる期待を寄せたいと思う。