明石です

きさらぎ駅の明石ですのレビュー・感想・評価

きさらぎ駅(2022年製作の映画)
4.3
これは、2004年1月8日に行方不明となった
ハンドルネーム”はすみ”という女性が
匿名掲示板〈2ちゃんねる〉に
実際に書き込んだ内容を元に制作された作品である

素晴らしい導入、、

過去に「きさらぎ駅」へ行き、一人だけ帰ってきた女性にインタビューをした女子大生が、そのインタビューでの知識を持って「きさらぎ駅」に行き、異世界から帰れなくなった人たちを救い出すという、オリジナルの話を上手く飛躍させた設定がもう面白い。そこそこには怪談好きを自認している私ですが、これはたまげた。そして、、なんたるどんでん返し。これは見事に騙された。しかも何ひとつ矛盾してない。美しい。

カメラワークも素晴らしいですね。主人が階段を一段ずつ上がってくる姿をローアングルで構えて映した導入部から引き込まれる。ゲームみたいな没入感を意識したのか、インタビュイーの回想シーンが終始一人称で撮られてるのが物凄く斬新。カメラのないPOVという、少なくとも私はこの映画で初めて目にした形式。これだけで平均点以上は確定したようなものだけど、ほかにも、数えきれない工夫が画面に凝らされてる。

残念なのは、キャラクター設定がまったくリアリティを欠いていること。80年代のアメリカ映画の、気に入らないことがあるとすぐにヒップポケットからナイフを取り出すスタジャン着た不良みたいに、過度に図式的で、作り手にとって都合の良すぎる人物像が鼻につく。こういう人間がいたら物語を進めやすいだろうな、という意図で「作られた」キャラクターというのは、鑑賞者は(とくに集合的には)目ざとく見抜いてしまうもの。そしてそこに作り手の怠慢を感じてしまう。Jホラーはいつからこんなリアリティを無視した作品づくりが許されるようになったのか。小津や溝口を生んだ国の映画がこれでいいのか、、とぼやくと、めんどいお爺ちゃんみたいだけど、でもそれはけっこう本音。ホラー=何でもアリみたいな風潮があるけど、それはむしろ逆で、ホラー映画こそ、現実との接点を大事にしなきゃいけないと『リング』や『着信アリ』で育った1人のホラーファンとして老婆心ながら思う(今では少し舐められてる感があるけど、『着信アリ』のリアリティは凄かった。とくに「ファイナル」の、幽霊を押しつけあって自滅していく女子高生たちの人怖描写は小学生の私には本気でトラウマでした)。

ともあれ、それは作り手の若気の至り(といってそんなに若くないと思うけど)で片付けられなくもない。小説でも映画でも、若い作り手ほどキャラクター設定を単純化するきらいがあるのは、どこの国でも同じと思う。ほかにも、効果音がデカすぎるし、霊が『幽遊白書」ばりになんでもかでもパワーで解決しようとするしで、いろいろと粗はあるけど、それらを補って余りあるほどには佳作でした。映画が良いというより、どちかというと、作り手が良いのかも。ホラー映画で当たりの監督を見つけた時の喜びは、他のどんなジャンルにおいてよりも大きい。ホラーでは実験的手法が許されるというのは真実だと思うので、こういう人がいるのは、一介のホラー好きとしてとても嬉しいです。
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