Hideko

イカした人生/Madly in LifeのHidekoのネタバレレビュー・内容・結末

イカした人生/Madly in Life(2020年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

原題: Une vie démente
英題: Madly in Life

2022年 MyFFF出品作品。

子どもが欲しいと思い始めた30代のカップル アレックスとノエミ。しかしその矢先アレックスの母スザンヌが「意味性認知症」という病気と診断されてしまう。事が落ち着くまで子どものことは先延ばしにしようと言うアレックス。ノエミはその言葉に戸惑うが…。

認知症の作品と言えば記憶に新しい『ファーザー』アンソニー・ホプキンスが認知症の父親役を演じていました。患者本人目線からその病を取り上げるという切り口と彼の類稀な演技が記憶に残る作品です。それに対し本作は患者本人を含め周りの人間全員にスポットが当てられています。

たまたま知人のお母さんが認知症で施設に入ったばかりであり、そこまでに至る長く困難な道のりを、そして数日前にその施設に馴染めず帰宅を強く望んで徘徊などが始まったと聞いたばかりで、介護者本人ではない自分ですが、すぐ側で見てきた者として本作には強く感情移入してしまい苦しくなるシーンが幾つもありました。

本作の素晴らしいところは、そのような現実を鋭く描きながらも始終、ともすればポップで爽やかな風が吹いていたところではないでしょうか。音楽はヴィヴァルディの『四季』の全ての季節が、また個性的で癒されるインテリア、周囲のカラーと同色の3人のファッション、アート作品の描写など、重くなりがちなテーマを和らげるのにそれらが大変効果的に使われていました。

ノエミが息を切らしそうになるものの、結局は最後まで粘り強く明るく対応していました。彼女の両親がとうとう授かった赤ん坊に会いに来る。オムツだけの赤ん坊をあやします。季節は夏。そこに赤ん坊と全く同じ格好をしたスザンヌが現れるものの誰も何事もないかのように受け入れる。庭先のテーブルで、赤ん坊はノエミにミルクを与えられ、スザンヌはアレックスからスプーンで離乳食のようなものを口に運んでもらっています。その対比の見事なこと。風が吹いて…。幸せそうな笑顔が皆の顔に…。忘れようにも忘れられない素晴らしいラストシーンでした。

アレックスとノエミがスザンヌの介護の手伝いにと雇った大柄の男性もまた良かったですね。テキパキと家事や家のことをこなし、気持ちの良い男性でした。あのような頼りになる人間が側に居てくれたからこそここまで来れたのだなと思うのです。

非常にセンシティブなテーマを、見たくないものから目を背けることなく、且つ、温かい眼差しで包んだ本作、抱きしめたくなるようなホロリと涙が溢れる作品でした。
Hideko

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