近本光司

マイ・ブロークン・マリコの近本光司のレビュー・感想・評価

マイ・ブロークン・マリコ(2022年製作の映画)
3.0
喪服のような黒々としたスーツに身を包んだシイちゃんが、ささやかな仏壇から骨箱を奪い取り、裸足のまま二階のベランダから飛び降りて、河をわたっていく。親友の遺骨を抱えた逃避行。ロード・ムービーとしてはこの上ない幕開けで、わたしは期待に胸を膨らませた。
 しかしシイちゃんがどのように喪に服せばよいのかわからず途方に暮れるのと同様に、映画はその次の手を繰り出すのに難儀して、一気に失速してしまう。遺骨にむかって語りかけながら、過去の記憶を呼び起こすというくだりだけでは間が持たない。停滞するドラマツルギー。あの釣り人も作劇の要請によって召喚されたようにしか見えず、どうにも弱い。永野芽郁の芝居も、決まっている瞬間もあることにはあるのだが、おそらくは原作のやさぐれた人物造形に接近しようと躍起になって、なんだかちぐはぐな印象をもった(彼女はほとんど叫んだことがないのではないか)。
 ほとんどマリコの顔を照らさない秋山恵二郎の仕事に瞠目。なにより中学生のシイちゃんを演じていた女の子の佇まいが素晴らしかった。佐々木告、2009年生まれだという。あとはラスト・シーンで、思いがけず手に入れたマリコの遺書を読んで永野芽郁が顔をほころばせるくだりはよかった。この余白。頼むからナレーションは入れてくれるなという願いだけは通じたのだった。原作もそうだったのかな。